デュラララチャット(仮)掲示板

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タキの小説!眼鏡彼氏×眼鏡彼女!!19話>20話>21話 タキ 2017/05/11(木) 22:51 [ 返信 ] No.159010
みなさんこんにちはこんばんは、タキです(^_^)/




唐突ですが小説の前に、スレ主として謝罪から。

先日は皆様に迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
不愉快な思いをされた方も居られるかと思います。
タキ自身あのスレッドのまま、続きを書いていくのはとてもつらかったので、新しいスレッドを建てさせていただきました。
三回目ともなり、またか…と思われる方や、わざわざ作り直すのか…と思われる方、大袈裟かと思われる方も、こいつスレッド乱立させすぎだろと思われる方もいるかもしれません。
自分でもそれは感じますが、新しいスレッドにしました。
投稿は消えたとしてもあのスレッド自体が穢されたような気がして嫌だ、という気持ちと拙く下手な小説でも自分で考え描き連ねていることのプライドがあるのです。


また、助けを求めて記事を投稿した時に、アドバイスや応援を下さった皆様、ありがとうございます。
タキはメンタルがとても弱いので、皆さんの返信にとても勇気づけられました。
この新しいスレッドで、1から始めたいと思います。
これからも応援してくださると嬉しいです。
本当にありがとうございます。






それでは小説紹介です!!
ジャンルでいえば恋愛とか学園かな?
題名(?)は深く捕えないでください!
上で硬い挨拶はしましたがタキは基本的にとても緩いいきものです!
少なくともゆるゆるやっていこうと思っています!!
だから、初めて読む方も、今まで読んでくださっていた方も気軽にコメントを下さると嬉しいです!!
…コメントあると影でにやにやしながらとても喜んでいますので……
でてくる子たちのイラスト書いてくださる方も募集中です!!




〜眼鏡彼氏×眼鏡彼女〜
プロフィール


☆香椎柚瑠☆
ヨミ:カシイユズル
性別:男
年齢:16歳
身長:178p
容姿:焦げ茶色の髪に、シルバーグレーと緋色のメッシュ
  こげちゃ色のたれ目に黒縁メガネ
  緋色と桃色の滴のイヤリング
服装:黒のTシャツ、緋色と白色のチェックのシャツ、デニム
性格:悪い。なんかやばい。ねこ。サボり魔。めんどくさがり。ゆるい。不良(?)


☆紀野緋鶴☆
ヨミ:キノヒヅル
性別:女
年齢:16歳
身長:164p
容姿:黒髪セミロングに、シルバーグレーと柚色のメッシュ
  黒色の猫目に黒縁メガネ
  柚色とオレンジ色のイヤリング
服装:紺色と白色のボーダーシャツ、薄桃色のパーカー、膝丈スカート
性格:若干男っぽい。ねこ。サボり魔。めんどくさがり。




※注意※
・完全素人作品
・気まぐれ投稿
・性格とか口調が迷子
・学生なのでやはり基本は制服ですが、日常生活の服はタキのファッションについての知識がなさすぎるため省略(-_-;)
・キャラの子の服などもアドバイス下さると嬉しいデス(_ _)




図々しいことは承知の上で…


キャラの子のイラスト描いて下さる方がいたらとても嬉しいですm(_ _"m)





前回と同じように1日3話のペースで、今まで投稿したやつをまた投げていこうと思います!!
誤字脱字、表現おかしい等気づいたことがあれば遠慮なく教えてください!
その他コメントやイラストも歓迎です!!
読んでるよ、なんて言われるだけで暖かくなるのですよ!!
   

ホロ 2017/05/12(金) 19:06 [ 返信 ] No.159061
朝起きてから、見ました。
大事な時にメッセージかけられなくて、歯がゆい思いです。

タキさんの小説がこれからも読めること、すごく嬉しいです!
これからもずーっと応援してます!

感想もぶつけ続けますね(笑)

タキ 2017/05/12(金) 19:58 [ 返信 ] No.159073
ホロさん>>
その言葉だけでとても嬉しいですよ〜
がんばりますね!!

タキ 2017/05/12(金) 20:14 [ 返信 ] No.159078
○いつもの放課後



放課後の図書室は人が少ない。
大学か、と思われるような立派な図書室だが、不真面目な生徒が多いこの高校では訪問者はほとんどいないのだ。
並べられただけの多くの机に付属された椅子。
そんなシンと空気が鳴る図書室の中、一組の男女が向かい合って本を読んでいる。


「なぁ、紀野」


本をめくる音と時計の音以外に変化のなかった図書室に、変化を与えたのは黒縁の眼鏡をかけた、ゆるりとした空気を持った男子生徒。
猫のような髪はこげちゃ色で、前髪にシルバーグレーと緋色が走っている。
……道端を歩く人々は、彼が図書室に入り浸っているとは思いもしないだろう外見だ。
本に視線を落としながら、声だけを彼女に投げかけた彼の名前は香椎柚瑠。


「…なに、香椎」


返した彼女もまた、視線をあげず本に目を落としたままだ。
黒縁の眼鏡をかけ、柚瑠とは違う穏やかな空気をまとっている。
さらりとしているのが見てとれる黒色セミロングの前髪にはシルバーグレーと柚色の線が走っている。
彼女の名前は紀野緋鶴。


「なんでいつも帰るの遅いの」

「…人のいない道でのんびり歩きたい」

「…いや危ないだろ」

「日が暮れる前にはでてる」

「まぁ、な」


柚瑠の問いに、今更何を…と緋鶴は視線をあげた。
その気配に柚瑠は本に栞を挟み、頬杖をついて緋鶴を見る。
柚瑠は緋鶴の淡々とした口調に苦く笑い、再び視線を落とした緋鶴をぼんやりと眺めた。


「ここで本読むのも楽しい」

「…それは………だな。」

「それに、あんたも遅い」

「男は大丈夫」

「…どーだか…香椎は闇討ちにあいそうだ」


表情を変えないままに投げられたその言葉に、柚瑠は顔を顰めた。
が、すぐにどこか面白げに笑う。


「紀野、顔に似合わず物騒なことを言うよな」

「事実だろ。喧嘩ばっかしてるくせに」

「それはそれ。…あ、あと紀野は時々口悪いし口調が男前?」

「……余計なお世話だ…。…つーか何の話だよ…」


緋鶴はなんだこいつ…と溜息をついた。
呆れたといった風な溜息を気にする様子も無く、柚瑠は呟いた。


「…やっぱいいな、図書室」


その呟きが静かな図書室の中で聞こえないはずはなく、緋鶴の耳に入る。
視線をあげた緋鶴は、柚瑠をじっと見つめて首をかしげた。


「あんたが本が好きって外見と中身合ってないよね」

「ひでぇな…毎日一緒にここで本読んでんのに。」


いま2年生の2人は1年生の時からよく、この図書室で一緒になった。
1年生に引き続いて2年生でも同じクラスの2人。
1年生の頃からずっとクラスでも図書室でも一緒だった2人は、いつの間にか一緒に時を過ごすことが普通になっていた。


「…まぁね。たしかに香椎のそのギャップには慣れた。」

「だろ」

「………」


その慣れ、にはいつから来たのか。
緋鶴はいつのまにか一緒にいることに違和感が無くなった目の前の男を不思議に思いつつ、再び本に目を落とした。
柚瑠は小さく溜息をついた。


「………(すぐ本見る……)」


自分と話していてもすぐ本に目を移し輝かせる緋鶴に。
緋鶴は気づいていた。


「………(……視線は時々痛いけど)」


本を読む自分をつまらなさそうに見ることがある柚瑠に。

タキ 2017/05/12(金) 20:25 [ 返信 ] No.159079
@告白(?)



2人はいつも一通り話し、一旦区切りがつくとどちらかが帰るまではほとんど口を開くことがない。
しかし、今日の柚瑠はいつもとは少し違った。


「なぁ、紀野」


話をするための最初の言葉はいつも通り。
それでも、珍しく2度目の会話に入ろうとする柚瑠に、緋鶴は不思議そうに顔を上げた。
返す彼女の言葉もいつも通りだ。


「…なに香椎」

「俺に付き合って」

「は?やだめんどくさい」


……柚瑠の言葉に、緋鶴の顔が一瞬にして不機嫌に歪む。
柚瑠はそんな緋鶴の表情に、機嫌を損ねたと、一瞬前に一つの音を間違えてしまった自分に心の中で舌打ちした。


「悪い、間違えた」

「………」


何をだよ…と呟きながら、緋鶴は今度は視線を落とさなかった。
柚瑠がゆっくりと口を開いた。





「俺と付き合って」





沈黙が落ちる。
緋鶴は目を見開いてまじまじと柚瑠を見た。


「……間違ってないんじゃない?」

「今度はあってる。分かってるだろうけど、買い物とかじゃないから。……いやか」


希な柚瑠の真剣な表情に、緋鶴はその整ったら顔を見たまま黙り込んだ。
最初のように図書室の中がシンと鳴いた。
一定なはずの時計の針の音に、何故か緋鶴は焦りを感じていた。


「んー……」


思わず緋鶴は唸る。
心の中ではどうしようと頭を抱えながら。


「付き合って」


容赦なく、柚瑠が追い詰める。
少しの不安に襲われながら。


「えー…、と……」


緋鶴はちらりちらりと柚瑠や他所を見ながら戸惑う。
何故か命令のように感じる柚瑠の言い方に頭を悩ませながら……。

タキ 2017/05/12(金) 20:37 [ 返信 ] No.159080
A脅し(?)



時計の針が3から6…15分から30分になったのを横目で確認した柚瑠は、流石に焦れたのだろう。
ここまで待っていた柚瑠もなかなかだが、それだけの間悩んでいた緋鶴もなかなかだ。
柚瑠は突然身を乗り出し、ぽかんとした緋鶴の眼鏡を外しとった。
綺麗な緋鶴の素顔が顕になる。


「嫌っつったらこれ伊達メってバラすぞ」


柚瑠の吐いた脅しの言葉。
何故伊達メガネと知っているのだろうと思いながら、緋鶴は返せと手を出す。


「……いやまぁ、それは勝手にしろよ隠してないし」


あっさりとした態度に柚瑠は、思わず普通に眼鏡を返してしまった。


「…いいのか………」


…ほんとに伊達メだったのか………と、思う柚瑠の脅しは、答えが早く欲しくて咄嗟に思いついた適当なものだった。
眼鏡が無ければ不自由だろうと、そう思っての取ったはずなのに…本当に伊達メガネ。
バラしてもいいなど、脅しは効く宛がなかった。
緋鶴は柚瑠の表情をよく見ないままに、今の会話で少し冷静になった頭で問いかけた。


「…で、本気?」

「本気」

「あんた私のこと好きだったの」

「飼い殺したい程に好き」

「ちょっと意味わかんないかな」


ヤバイやつに好かれたみたいだ、と緋鶴は頬を引き攣らせた。
飼い殺すとは何事だ。
柚瑠はそれを見て楽しげにくすくすと笑う。


「殺したいくらい好きだから付き合え」

「そう言われて頷く女の子いるのか、しかも命令形で」

「いるじゃん紀野が」

「…ちょっとスルーしとく。…それにしても、随分独特な告白だ」

「思い出になるだろ」

「トラウマにはなるかもな、どこでそんなの覚えた」

「家族で」

「どんな家族だよ」


どこか得意気な顔とズレた感覚に、危機感が積もり積もる。
仮に柚瑠がどうにかなったとしても家族となると、安全要素が一つもない。
柚瑠は緋鶴をはやくはやくと促す。


「で、どう」

「考えさせてよ」

「やだ」


せめてもの抵抗を見せる緋鶴を、あっさりとこどものような言い方で切り捨てた柚瑠。
そんな柚瑠に…


「あんたが伊達メってばらすぞ」


緋鶴は、さっきの柚瑠の言葉を真似た。
こちらは時間稼ぎのために考えた適当すぎる借り物の脅しだ。


「隠してねぇから勝手にしろよ」


…しかし、柚瑠の答えは単純かつ明快。
そして、緋鶴と全く同じ答えだった。
答えつつ、柚瑠は心の中で、いつ伊達メだとバレたのだろうと首を傾げる。



「は?伊達メだったの?」



緋鶴は柚瑠の思いがけない言葉に目を丸くした。



「そっちこそ」



柚瑠は思いがけない問いに目を丸くした。





2人「「…………あれ?」」






お互いの適当すぎる脅しは、お互いにとって予想していない、そしてどうでもいい事実を晒していた。

時計の針の音が何度目か響きわたる。
外は、周りを圧倒させるオレンジの光と白いふわふわの存在を、美しい風景を、ゆっくりと仕舞おうとしていた。

タキ 2017/05/13(土) 07:35 [ 返信 ] No.159127
B好き



………この際眼鏡……いや、伊達メガネのことなんてどうでもいい。
ほんとうにどうでもいい。
お互いにバラされても構わないほどにどうでもいい。
それよりも柚瑠から緋鶴への告白が重要だ。
微妙な空気を払うように緋鶴が問いかけた。


「……。………なんで好きなの」

「え?存在」

「馬鹿じゃねぇの」

「好きなんだから好き。それ以外も以下もねぇよ。お前、自分がイツの日にナニカをドウシテ好きになったかなんてわかんのか」

「…わかんない」

「だろ。だから俺は紀野緋鶴って存在が好きって言ってんだよ」

「そ、か……」


柚瑠の漠然とした答えに唖然とした緋鶴は困ったとまゆを下げる。
しかし、柚瑠の真っ直ぐな表情と言葉には、たしかにと頷いた。
素直な緋鶴にくすりと笑いながら柚瑠は続けた。


「それに俺と紀野、共通点多いだろ。しかもお互いのこと無意識かちゃんと理解してる。隣にいてほしい。」

「例えば?」

「黒縁メガネ」

「…しかも伊達ね」


緋鶴の苦笑いに、柚瑠も苦笑いする。
それから、と、柚瑠は彼のいうところの共通点を挙げられていった。


「顔がいい?」

「シネ」

「自然感がある名前」

「……そうだね」


あまりにも無理矢理というか訳の分からない"共通点"に緋鶴は呆れ、何言ってんだかと視線を送る。
が、柚瑠がそれを気にする様子はない。


「づるとずるって発音似てるよね」

「………そうだな、母音一緒だし」

「めんどくさがり」

「……そうだね」

「成績いい、点数一緒」

「……そうだね」


柚瑠がめんどくさがりという言葉通り、自分が聞いたというのに、柚瑠が挙げる例に、緋鶴はめんどくさげに頷く。
しかし実際、2人とも成績はよく各教科にプラスマイナスはあっても合計点はどういう訳かいつも一緒だった。


「帰宅部だけど運動神経割といい」

「……そうだね」

「二年連続同じクラス」

「…うん」

「番号前後」

「…うん」

「マイペース?」

「…うん」

「サボり魔」

「うん」

「授業ずっと寝てる」

「うん」


面倒くさい、まさにそう書いてある緋鶴に、こうなるよなーと柚瑠は心の中で頷く。
実は彼もこのやりとりは面倒臭い。
自分でわかっているが共通点じゃないことも言っている。
しかし、こういうやりとりが自分に有利に運んでいくことがあることも知っていた。
例えば………


「本が好き」

「うん」

「好きなもの結構一緒」

「うん」






「俺と付き合え」

「うん」






「………」





このように。
よくある誘導だ。
いまの緋鶴の適当さはこうやって、ぼろを出す。
緋鶴の頷きに、柚瑠は悪い笑みを浮かべた。

√ae 2017/05/13(土) 14:47 [ 返信 ] No.159151
ほぁわあああ、、、二人のなんとなくたどたどしい会話が好きです!

自分も絵とか描く時に、キャラぶれるときあるんですけど、
プロフィール帳を自分のキャラになりきって書くと、いいメモ書きになって便利ですよ( ̄^ ̄ゞ

これからも読みに来ます( ̄^ ̄ゞあと、いつかキャラ絵を描いてもってきます!

タキ 2017/05/13(土) 16:09 [ 返信 ] No.159159
√aeさん>>
ありがとうございます!

プロフィールですか…なるほど!!
参考になります!!

イラスト嬉しいです!!お待ちしております!!

タキ 2017/05/14(日) 00:18 [ 返信 ] No.159279
掲示板荒らされてますねぇ
4回目、なんてことにならないうちに上げときます

通りすがり 2017/05/14(日) 00:21 [ 返信 ] No.159297
現在進行形で荒らされてますし、
極端いってこのまま全スレ消しに挑戦してるかもしれませんし、
文章保存しとくのおススメします。

もうされているかもしれませんが;
御節介しつれいしました。

タキ 2017/05/14(日) 00:26 [ 返信 ] No.159318
通りすがりさん>>

保存はしてあるんで大丈夫です!
ありがとうございます!!
それにしてもこんな夜に暇ですね〜、荒らしさんは…

ホロ 2017/05/14(日) 00:27 [ 返信 ] No.159323
タキさんが文章保存してるって聞いて安心しました♪
今日1番の心配事項だったので!

タキ 2017/05/14(日) 00:31 [ 返信 ] No.159332
ホロさん>>

タキは別のメモ帳に書いて保存してからここに投稿しているのですよ!
だから本体さえ壊れなければ何時でも投稿できるのです(。-∀-)



新しくする度になるべく誤字脱字を見つけて直したり、文章とか言葉おかしい所をちょいちょい直していたりするのです
……結構あって大変(´д`)

ホロ 2017/05/14(日) 00:33 [ 返信 ] No.159337
そうだったんですか!
よかったぁ(∩´∀`∩)

実は微妙に修正があったんですか!?
違いをたまに探してみたくなったり・・・w

タキ 2017/05/14(日) 00:39 [ 返信 ] No.159351
ホロさん>>
あははっ(笑)
間違い探し、時間つぶしにもいいかもですね〜
でも間違い探しする前に荒らしのせいで流れていく(´д`)

タキ 2017/05/14(日) 00:47 [ 返信 ] No.159367
C付き合って



柚瑠の声が聞こえなくなったことを不思議に思ったのか、緋鶴は顔を上げた。
そして、そこにあった人の悪い笑みに冷や汗を流す。
おそるおそる口を開く緋鶴に、柚瑠はただ楽しげに笑みを浮かべた。


「…ぁ……」

「………」

「……ん、と?…えっと……?なんて言った…?」

「俺と付き合ってって言った」

「…そんなかわいい言い方だった?どこか意識の遠くでは命令形だった気がする…」


……命令形だ。
おざなりな返事をしていても、ぼんやりとは聞いていたらしい緋鶴。


「紀野、うんって言った」

「……言った?」


少しずつ、緋鶴の頬が朱に染まる。
戸惑い目を泳がせながら問う声はか細い。


「言った」


緋鶴の反応にかわいい、と柚瑠が目を細める。
無防備に表情を崩している姿はなかなか見られないため、柚瑠にとっては新鮮でもあり彼は心内で嬉しがる。
緋鶴は自分の失態に溜息をついた。


「うわぁ……」

「このわかりやすい誘導に引っかかるか…。紀野、詐欺に会わないように気を付けろよ」

「……」


柚瑠の言葉に緋鶴は押し黙る。
こんなものに引っかかったことなんてない、そもそもこんなものをされたことはない。
ここの学校に真面目な生徒が少なくてよかった、図書室にほかの生徒がいなくてよかった。
ほかの生徒に知られたと思うと、いま以上の羞恥で死んでしまいそうだ、緋鶴の頭の中、冷静な場所がそう呟いた。
羞恥と照れに染まった顔を見て、柚瑠は声を出して笑った。
応の返事はされていないが、否の返事をする気配はなかった。


「紀野、実は俺のこと結構好きだろ」

「……シネ」


緋鶴の動揺が混じった暴言にも柚瑠はおかしそうに笑った。
柚瑠が声を出して笑うことは多くない。
静かにくすりと笑いはするが、いつも押し殺していて、こんな柚瑠は珍しい。
普段暴言なんて吐かない緋鶴がたまに吐く暴言は、どんなにひどい言葉でも、どこか可愛らしい緋鶴。
緋鶴は、柚瑠の無邪気な笑顔にも照れてしまい、顔を隠すしか無かった。

外は、頬の色を夕焼けのせいにできないほど、うっすらと夜の気配をうつしだしていた。

タキ 2017/05/14(日) 00:55 [ 返信 ] No.159384
D照れ


「………リンゴだな」


ちらりと見える顔が真っ赤に染まっていて、りんごみたいだとその姿を思い浮かべる。

そして口の中で思わず呟いた。
しかし、緋鶴には聞こえていない。


「……」


一方、緋鶴はなんでばれているのだと呪いのように心の中でさけんでいた。
柚瑠が言うように、緋鶴は実際柚瑠のことが嫌いじゃない。
寧ろ好ましく思っているし、一緒に居て落ち着き、ふとした時にはどきどきと胸が高鳴る。
図書室にいる時も、教室にいる時もふと顔をあげればそこには柚瑠がいるから、胸のどきどきも不定期に突然に起こる。

実は緋鶴は感情を表すのが下手だ。
逆に、出てしまった感情を心の扉におさめきるのも下手だ。
その状態は1度その時になると、収まるまでになかなかの時間かかる。
誘導に乗ってしまったのが恥ずかしいと言っていた顔が、何でバレているんだと言っている。
動揺に動揺が重なり、今の緋鶴はくるくると表情が変わり、心情を話しているようだ。


「………」

「………紀野ー?」


笑いを含んだ声で柚瑠が呼びかける。
しかし、緋鶴は聞いてはおらず葛藤していた。
柚瑠はくるくる変わる表情を見ながら、緋鶴が結構わかりやすいことに気づいた。
柚瑠も感情を表すのは得意じゃないが、下手というわけではない。
ただ、表面上取り繕うのが得意だから……取り繕っているからこそ、今の緋鶴はわかりやすく感じた。


「……」

「……んー………紀野ー」


どうしたらいいのだろうと考え込む緋鶴の耳に、柚瑠の声は届いていない。
何か言わなければいけないのだろうかと、必死に頭を回していた。
今の場合、とりあえず柚瑠にうん、などと聞いてると伝えればいいだけだが、柚瑠の声が耳に届いていないためにそれはできない。


「……」

「……そうだな…………なぁ、ひづる」


柚瑠はふと名前を呼びかける。
今までずっと名字で呼んでいたのを名前で。
言いなれないその名前は自分でもぎこちなく聞こえる。


「……っ………え、なに……?」

「…いまから死ぬまで一生そばにいろ」

「………はっ…?」


はっ、と意識を覚醒させた緋鶴は、次の柚瑠の言葉に別の意味ではっ、と固まった。
とりあえず緋鶴の意識を自分に取り戻せたことに嬉しく思いながら、初めて呼んだ名前に鼓動が早くなるのを感じた。
……呼ばれた本人は気づいていなかったが。


「一生、ずっと。」

「…無理だろ」


一瞬の沈黙の間苦笑いした緋鶴。
一生という言葉に、どきっと心臓が止まったのではないかと疑うほど、その音が緋鶴の身体の中に鳴り響いた。
高校生の2人には少し重いのかもしれないその言葉…しかし、緋鶴の心臓は大きな音を鳴らしている。


「今何か少し考えただろ。」


沈黙に首をかしげる柚瑠に首を振った緋鶴。
しかし………

「…別に………ただ…」

「ただ?」






「プロポーズみたい…?」







プロポーズみたいだったなぁ……なんかおかしいけど……、と素直に口に出した。
柚瑠はその言葉に頷いた。







「まぁ、プロポーズ?だしな」

「はっ?」


これは如何なものか。
緋鶴はどきどきすることができないまま、告白からたった数分でのプロポーズにそれしか返すことが出来なかった。
柚瑠は至って真面目な顔。

互いに見つめ合う中、学校のチャイムが鳴り響き始めた。
しかし、緩いこの学校では見回りが来るまでの時間はある。
チャイムの響く音が止んでから再び、柚瑠が口を開いた。

タキ 2017/05/14(日) 07:02 [ 返信 ] No.159514
(´∀`∩)↑age↑

タキ 2017/05/14(日) 07:54 [ 返信 ] No.159546
Eプロポーズ




「そばにいないと飼い殺しにする」


首輪を付けて、と心の中で付け足す柚瑠はやはり真顔。
緋鶴はそんな柚瑠に、近いうちに死ぬかもしれないと戦慄が走った。
もう決定しているような柚瑠の口調で、緋鶴に断るという選択権が与えられていないように感じる。
そして飼い殺しとは何事だ…監禁ってことか……?と、あるかもしれない未来に閉口する。
緋鶴が焦る中、柚瑠はねこっぽい緋鶴なら首輪つけても似合いそうだと、なんとも非人道的なことをのんびりと考えていた。


「で、返事は」

「うわ…トラウマになりそうでこわい…」

「いいな、俺のことずっと頭にあるってことだろ」

「ちげぇよ…」

「トラウマってそうじゃね?」

「……なんかちげぇ………」

「そ?」


緋鶴の返し方からして、おそらく、思い出にはなるがトラウマにはならないだろう。
焦りながらも、口から出てくる言葉は意外と冷静だ。
柚瑠はそんな緋鶴に嬉しそうにしている。
頭の中で、緋鶴は1度、柚瑠の言葉を繰り返した。


「つーか………いるし………」


"俺のことずっと頭にあるってことだろ"
その言葉がリピートされ、緋鶴は無意識に柚瑠に聞こえない声で囁いた。





"今だって今までだって、なんかずっと頭ん中に柚瑠いるし"





囁いたことに気づいたあと、自分は何を言っているんだと緋鶴は机に頭を打ち付けた。


「ん?」


首を傾げる柚瑠。
頭を打ち付けたまま動かなくなる緋鶴。
柚瑠は10秒ほどそれを見て、緋鶴の頭に手を伸ばした。
よしよしと撫でる手。
柚瑠も緋鶴も心地いいと体の力を抜く。
柚瑠の暖かな手でふんわりと頬がゆるんだ緋鶴は、そのまま、つい何分か前の告白に答えた。


「………いえす」

タキ 2017/05/14(日) 22:21 [ 返信 ] No.159710
Fいえす





「え………?」

「……返事、した、帰る」


ゆるりと微笑んだ緋鶴の言葉に、柚瑠はきょとんとして手を止めた。
緋鶴はそんな柚瑠に少し笑って自然な動作で頭を撫でていたその手を下ろさせる。
静かに立って棚に向かった緋鶴に続く柚瑠。


「返事って…いえす……?」

「……」

「付き合って、に、いえす?ほんと?」

「知らない、馬鹿、帰る」


きょとんとしたままの柚瑠の確認の言葉に、緋鶴はつんとそっぽをむいた。
しかし、耳が赤く染まっているのが見えて柚瑠はまた頬を緩ませた。
本を棚に返す緋鶴の横で、柚瑠は背に鞄を担いで本を棚に入れた。


「…あー……紀野…まじで可愛い。今日から帰り、送る」

「……ふん」


くしゃくしゃと髪を撫でる腕を払って、緋鶴は手櫛で髪を整えようとした。
払われて少しむっとしながらも、照れて拗ねているだけの様子に、柚瑠はまだはねている髪を優しくなでて寝かせた。
緋鶴はその手の優しさに、くしゃくしゃにした本人である柚瑠に小さく礼を言った。
柚瑠は笑って返し、先を歩いて扉を開け帰りを促す。
緋鶴は慌てて鞄を手に持ち外に出た。






並んで歩きながら、柚瑠がふと思い立ったように緋鶴の顔をのぞきこんだ。
緋鶴は首を傾げる。


「なぁ首輪つけていい?」

「精神科?行ってらっしゃい今すぐ」


柚瑠の提案に即座に返した緋鶴の顔は真顔になり、ゴミを見るような目で柚瑠を見た。


「やだ、行かない、一緒に帰る」

「………ん…………」


緋鶴の目に、今の目マジだ…と冷や汗を流す。
馬鹿じゃないの、などの優しい表現ではすまないほど、柚瑠に取っては恐怖の目だった。
精神科と言うよりも地獄にでも行ってこいと言われている気分だ。
冗談とも本気ともつかない自分の言葉を取り繕うように、手を繋ごうと手を伸ばした柚瑠。
緋鶴は少し視線をさまよわせてから、その手の人差し指を握った。
手、を握るか握らないかどっちかだと思っていた柚瑠。
指、を握ってくるとは思っていなかったため一瞬不思議そうに緋鶴を見るも、今日何度もみた緋鶴の照れ顔に、これもいいなと心の中で呟いた。

タキ 2017/05/14(日) 22:30 [ 返信 ] No.159714
G帰り道



柚瑠と手…指を繋ぎのんびりと帰り道を歩きながら、緋鶴はぼんやりと考え事をながら歩いていた。
とっくに日が沈みまだ日の明るみを残しながらも、月ははっきりと出ており、星もチラチラと弱い光を見せている。
柚瑠は他所に飛んでいる緋鶴の意識を自分に向けさせようと手を揺らす。


「なぁ、紀野」

「……」


手を揺らす柚瑠に気づきもせず、緋鶴は先ほどの柚瑠の告白を思い出しながら、こいつが彼氏なんていろんな意味でやばいよな、なんて考えていた。

緋鶴からみた柚瑠はハイスペック人間だ。
勉強も運動もそこそこできるし顔もまぁいいわけで、女子が結構話題に出してたりしているっぽい。
少なくともクラスのやつらからのわたしへの視線は変わるだろう。
それはどうにかなるが、そばにいないと飼い殺しにする、は、まぁヤバイだろう。

しかし、柚瑠からみた緋鶴もまたハイスペック人間だ。
勉強もできれば、運動も男子の平均…女子にしては大分できるほうだし、顔…というより体全体のスタイルやバランスがよく、男子の方でも密かに話題になっている。。
緋鶴と付き合えば、男子の視線が自分に突き刺さってくるだろう。
柚瑠にとってはそんな視線は気にするほどのものでもないことだが……。

言ってしまえば、2人とも周りから視線を集めやすい。
むしろ集めているし、本人達は愛想の欠けらも無いが何故かクラスのマスコットのように人気だ。


「…なぁ」

「……」


こんな濃ゆい彼氏だなんて家族はどう思うか……、途中まで考えて緋鶴は考えることを放棄した。
緋鶴の家族はちょっとお馬鹿な人ばかりだ。
柚瑠を見ればそれだけで喜ぶだろう。
……柚瑠はなかなか反応しない緋鶴の、指で繋いだ手を恋人繋ぎに、繋ぎ変える。
それでも反応しない緋鶴に、しょぼんと眉を下げる。
付き合ったばかりだというのに…。


「紀野ー 」

「……誰か知ってるかもな………」

「きーのー……さみしー」

「……うわぁ…。…うん、知ってるかも……」

「…紀野さん紀野さん」

「うーん………なんかやな予感……」

「……。……ひづるっ!!」

「…えっ?!」


反応しないどころかぶつぶつと独り言を言い始める緋鶴に、ついに柚瑠がすこし大きく強い声で名前を呼んだ。
緋鶴はびくっと肩を揺らし、恐る恐ると柚瑠を見上げる。
ぴったりと合わさる視線。


「………」

「………」


少し見つめあった後、柚瑠が子どものようにそっぽをむいた。
緋鶴はそれを見てぎゅっぎゅっと柚瑠の手を握る。
……緋鶴は繋いでいるのが指から手に変わっているのに気づいていないままのようだ。
くいっと手を引いて、今度は緋鶴が柚瑠の気を引いた。


「…俺無視すんな」

「…ごめん 」


呟く柚瑠にぽかんとしながら、緋鶴はぽつりと謝る。
緋鶴の謝罪に、柚瑠は緋鶴に視線を戻して問いかけた。


「何考えてた」

「ん、と…家族のこと……?」

「家族…?」


苦笑いして答えた緋鶴に、柚瑠はきょとんとした。

タキ 2017/05/15(月) 21:52 [ 返信 ] No.159815
H家族


「家族…?」

「彼氏できたって言ったらどういうかと」


きょとんと首を傾げる柚瑠に頷く緋鶴。
続けて小さく困ったようにため息をついた緋鶴に、柚瑠は不安げにまゆを潜めた。


「…怒る?」

「いや?…あー、たぶん喜ぶと思う」

「へー、珍しー感じ」

「私、所々男っぽいでしょ」

「んー…まぁ」


喜ぶと聞いて、柚瑠はえっと驚く。
緋鶴を横目に見ながら、こんな綺麗な娘に彼氏ができたら悲しむんじゃないかと心内で思った。
柚瑠にとって緋鶴は、ほかの女子とはどこか違うおもしろい女の子、という存在だった。
勉強も運動もそこそこできるし、顔立ちがよくスタイルがいい。
緋鶴の肌は白いが、その白さは病的なものじゃなくて健康的な白さで安心感がある。
細すぎない身体は、全体のバランスが整っていて綺麗だ。
めんどくさがり屋で積極的なコミュニケーションは取らないが、無視はしないしなんだかんだで緋鶴が相手をしてくれるから、男女ともにそこそこ人気がある。
……そんな娘、男に取られたくはないだろうに。
所々男っぽいというのはなれた柚瑠からしてみれば気にならないし、寧ろ女の子っぽくなった時のギャップに殺られている。


「少しでも女ぽいだけですごく喜ぶ」

「彼女とか彼氏とかいうだけで?」

「ん。彼氏できたら連れてこいよ、緋鶴が彼女って紹介されるのすげぇどきどきしそう、ってさ。女子かって感じなんだけど」

「へー…なんつーか…単純?な家族だな」

「香椎の家族は彼女できたて言ったらどう言われる?」

「……あー」

「?」

「うるせぇかも」


緋鶴の家族事情を聞いてどんな家族だよ、等と考えながら、緋鶴の質問に嫌な顔をした。


「なんで?」


緋鶴も先ほどの柚瑠のように不思議そうな顔をする。


「んー…あー……やっと実ったから?」

「え」

「俺結構前から紀野のこと好きで」

「…ふ、ふむ」

「…それ知られてて」


柚瑠の言葉に緋鶴はぶわっと赤くした。
目に見えて動揺する緋鶴に密かに笑い柚瑠が続ける。


「……へぇ…」

「いつまでも連れてこないから」

「うん」

「…ずっとヘタレって言われてた」

「……家族さん、強いね」

「だから俺の家も喜ぶと思う」

「……そ。息子でも嬉しいもんなんだね、彼女とかできたら……」

「みたいだな。……つーか、基本阿呆しかいねぇし。恋愛話できゃーっ、てなる阿呆しかいねぇし。女子かよ……。」

「うちも」

「あと変人。もう少し、なんつーか…」

「ほんとそれ…」

「「……。…………あれ?」」


2人は頷き合い、そしてぴたりと動きを止めた。
なんだか家族まで似ているんじゃないか、と。
自分の家族でさえ手一杯というのに、緋鶴の家族が、柚瑠の家族が、変人の阿呆ばっかりということは自分たちは……。
そこまで考えて、2人は考えることをやめた。
自分たちの家族だ、考えるだけ無駄だ。
緋鶴はふと顔を上げ、少し先の自分の家がいつも通りに明るいのを確認して苦笑した。
家族だけじゃなく他の家に来る客も問題だと。

星が輝き自己を主張するのを見上げながら、あと少しの距離を、初めての一緒の帰り道を2人は歩いていた。

ホロ 2017/05/15(月) 22:31 [ 返信 ] No.159821
続きを知っていると、ここの下りにもニヤニヤできちゃいますね!
初めて読んだときは「どんな家族なんだろう?」って思ってましたが、今は全く違う新鮮な気持ちで読めます。
二倍楽しめてる感じです(●´ω`●)

あと、9話が2個あがってるかもです!
ぜひとも10話の再掲を!

タキ 2017/05/15(月) 22:42 [ 返信 ] No.159824
ホロさん>>
ありがとうございます!!
自分でも書き直してて楽しいですよ^^

9が2個上がっているの気づかなかった…
すぐに10あげます!

タキ 2017/05/15(月) 22:43 [ 返信 ] No.159825
Iまた明日





「香椎、うちここ」

「……はっ?!」

「?」


家の前に立って指を指す緋鶴に、柚瑠は目を見張った。
敷地も広いし家も大きい。
純和風屋敷な様子に唖然としたまま柚瑠が感想を言った。


「……大きいな」

「まぁ、大所帯だし」

「…いや、それにしたって……」

「毎日のように家族の友達とか知り合いとかたくさん来る」

「へー……」

「香椎の家、どこらへん?」

「…この道真っ直ぐ行ったところ」

「へー」

「いつか連れてく」

「ん」


緋鶴の家族は交友関係が広い。
緋鶴自身は学校であまり深い関係の人間がいるように見えないから、他の家族の関係か…と柚瑠は考える。
阿呆しかいないとお互いに言っていたが、交友関係が広いのは柚瑠も同じだった。
どこかで繋がっているかもしれないと思う2人。
繋がっていたらそれはそれでおもしろいと思う2人。
柚瑠のいつか、の約束に緋鶴はどこか嬉しそうに目を細めた。


「紀野、いつも何時に出てんの」

「7時40分くらい」

「……はえぇ…………」

「人が多いの嫌」


唐突な質問に首を傾げながらも、緋鶴は素直に答えた。
いくら不真面目な生徒が多い高校であっても朝のST(ショートタイム)の時間はあるわけで、その時間は8時半。
学校から20分程かかる緋鶴は早めに家を出て、誰もいない道をのんびりと歩いている。


「…俺来る時いつも誰もいねぇ」

「いつも遅刻してるからだろ」

「ねみーし」


一方の柚瑠は緋鶴とは逆に登校時間が遅い。
柚瑠も人が多い時間は避けたいし、何よりも常に眠気に襲われているため、起きた時間に学校に行くという不規則な生活をしている。


「香椎は授業中寝てるだろ」

「夜遊びしてる」

「不純」

「嘘。友達と絡んでる」

「不良友達か…つーか遊んでんじゃん」


2人は家の前で立ち止まったまま月明かりを浴びる。
苦笑いする緋鶴に、柚瑠はまゆを潜めた。


「…言うほど不良じゃねぇ」

「どこがだよ」

「…ピアスしてねぇし」

「え、不良基準そこ?私開けてるんだけど」

「まじか…まぁ俺も開けてるけど。……悪いことはしてねぇ」

「例えば」

「たばこ、酒、ヤク、獲物も持ってない」

「ヤクと獲物は当たり前。……喧嘩はしてるってことだよなー………」

「あ……」


タバコと酒も当たり前なんじゃね…と、柚瑠は呟く。
緋鶴はその言葉を気にする様子もなくじっと柚瑠を見た。


「あ、じゃないよ知ってるよ馬鹿。むしろ見たことあるし。強いって有名じゃん香椎。」

「…」

「授業さぼるし寝るし教師に啖呵切るし」

「…それ紀野もじゃん」

「………」

「………」

「…まぁ」


事実なだけに緋鶴はすっと目を逸らす。
無言で見つめる柚瑠に、しぶしぶと同意を示した。
それをみて柚瑠は満足げに笑みを浮かべる。


「……明日がんばって起きる」

「へー、がんばれ」

「俺来るまで待ってて」

「え」


柚瑠はいつも唐突だ。
唐突な宣言に適当に返す緋鶴に予想外な言葉を押し付けた。
緋鶴はぽかんとして柚瑠を見る。


「わかった?」

「…ぎりぎりまで来なかったら置いてく」

「ん」


ぎりぎりまでは待ってくれるのか…。
仕方ないとため息をこぼす緋鶴にまた笑みを浮かべ、柚瑠が頷く。
緋鶴はいつも、頼まれたことはなんだかんだで引き受ける。


「遅刻したら殴るからね」

「………ん」

「……うん」

「じゃぁ、あしたね。…ひづる」

「ん、明日。気をつけて」


軽く手を振って家路につく柚瑠を途中まで見届けてから、緋鶴はいつもの賑やかな家の中に入っていった。
柚瑠にとっては初カノ、緋鶴にとっては初カレ。
お互い口には出さないがほぼ恋愛初心者の2人は、まず、初登校を終えた。
暖かい気持ちを照れくさく感じて笑みを抑えながら、2人はそれぞれ歩いていた。







その後の2人

柚瑠(……ひづるって言ったのにまた無反応だった)



緋鶴(…あれ……名前で呼ばれた……気の所為………?!)

√ae 2017/05/16(火) 12:45 [ 返信 ] No.159847

字汚くてすみません(;´Д`)

タキ 2017/05/16(火) 16:42 [ 返信 ] No.159858
√ae

うおぉ……かわいい………!!
ありがとうございます!!

ホロ 2017/05/16(火) 18:40 [ 返信 ] No.159874
横からすみません!
√aeさまの描いた眼鏡カップル可愛いです!
身長差萌えです///
ゆずひづ好きだ〜〜!!

タキ 2017/05/16(火) 22:07 [ 返信 ] No.159903
J初登校


いつも通りの時間、緋鶴は靴を履きながら柚瑠はちゃんと起きたのだろうかと心の中で呟く。
緋鶴は柚瑠が、夜に友達数人と遊んでいて学校を遅刻したり寝ていたりしていることを知っている。
だからこそ昨日の夕方の"迎えにいく宣言"に驚いていた。
行ってきます、と家族とその友人たちに声を投げかけて、緋鶴は玄関の扉を開けた。


「……紀野…………」

「…えっ!?」

「……眠くて…死にそう………」

「か、香椎…?」


道に出て少し右の方を見て緋鶴はびくっと固まった。
そこにあったのは黒い人影で、もそっと動いてかすれた声を出したその人物に緋鶴は狼狽えた。
柚瑠がぼーっと傍らにしゃがんだ緋鶴を見る。


「い…つからそこにいたの!?」

「んー…7時……とか…?」

「なんで連絡しないの馬鹿?!」

「…紀野の連絡先……知らない…」

「……そう、だっけ…………?」

「……あぁ。…学校で教えて」

「ん、わかった。はやくいこ」

「んー……」


眠気に襲われている柚瑠は、緋鶴に返す言葉も弱々しく眠たげだ。
立ち上がった緋鶴が柚瑠の手を掴んでよいしょと立たせる。
柚瑠は緋鶴の狼狽えように、眠くても早く来てよかった…と、くすりと笑い、緋鶴の手をしっかりと握った。


「…来てくれてありがと香椎」

「約束したし…っふぁぁ…………」

「が、学校でたくさん寝てね」

「あはっ…なにそれ」

「…なにわらってんの」

「待ったかいがあったなと思って」

「……」

「学校で寝ちゃ悪い子だろ」

「いつも寝てるお前が何を言う!?」

「お互い様だって」

「…だから寝てねっていった」

「はいはい」


昨日の道をまたおなじようにのんびりと逆戻りして学校へと向かう。
あまりにも笑う柚瑠に緋鶴は拗ねて言葉が投げやりになった。


「……ごはんは?」

「食堂の自販機で買う」

「…あー、パンの自販機か。…あるかな?」

「運があればあるだろ」

「…昼は?」

「…それこそねぇな」

「……パンたくさんあるといいね」

「あー…」


柚瑠の手に弁当用の袋がないをみて問いかける緋鶴。
珍しく早く起きて早く家をでたために弁当を持っていない柚瑠。
心配気に呟く緋鶴だが、柚瑠はどうにでもなるだろと笑った。


「いざとなったら私のあげる」

「お前の分無くなるだろ」


気にすんなと言う柚瑠に、いや…と首を振った。


「炭酸飲めばすぐお腹いっぱいになるから大丈夫」


この言葉に柚瑠は、ありえないと緋鶴を見下ろした。
視線を感じ顔を上げた緋鶴はその視線の意味が分からず首を傾げた。


「…炭酸って…腹いっぱいになるか?」

「?ならない??」

「…あぁ。つーかお前ふつーに炭酸飲むんだな、意外。」

「飲むよ。…あのカップの炭酸で午後は持つかな。ペットボトルとか缶のって、お腹いっぱいになって最後まで飲めないんだよね」

「それ、腹いっぱいって勘違いしてんじゃないの」

「馬鹿だねー」

「お前の腹だ」


真顔で柚瑠の考えを貶す緋鶴に、呆れ顔をしてぽんと頭を撫でる。


「まぁ、ほんとに足りなかったらよろしく」

「ん、いいよ。…あ、でも卵焼き入ってたら卵焼き1つ食べたい」

「好きなのか」

「うん」

「りょーかい」


学校の玄関に着いた2人は手を離し靴を履き替える。
そしてまた自然と手を繋ぐと荷物を置きに教室へと向かった。

ほとんど誰もいない廊下。
まだ早いせいか、いつもの学校生活よりも空気が軽く気が楽だ。
いつも通りの登校時間の緋鶴はそんな廊下を慣れたように、いつも登校が遅い柚瑠は物珍しげに歩く。
廊下に反響する靴音。
2人にとって昨日までとは少し違う1日が始まりだした。

タキ 2017/05/17(水) 21:06 [ 返信 ] No.159972
K食堂






「………」

「………」

「……ないね」

「……だな、見事に空っぽ」


静かな食堂に、自販機が動く音と、カチッウィーンウィーン、カチッウィーンウィーンとパンの自販機が動く音がよく響く。
柚瑠と緋鶴は並んで、パンの自販機を見つめていた。
柚瑠がボタンを押すと、中にあるパンは回って行き、違うパンが姿を見せる…はずだった。
一向に姿を見せないパンに2人は視線を交えると苦笑いした。


「そういえば昨日、どっかの部活に他校の人が来てたかも」

「そいつらに取られたってことか」

「たぶん」

「どんだけ食い意地はってんだよ」

「食い意地って…。……香椎って、食堂で何か買ったことある?その手もあると思うけど」

「うるさいし混んで人がいっぱいいるから嫌だ。自販機しか触ったことねぇ。」

「……どーせサボってんだから昼休み始まる少し前くらいに来ればいいじゃん」

「いつもサボってるわけじゃないし。…つーか一人で来るの寂しいだろ」


とりあえず栄養とったら?と、緋鶴が紙パックの野菜ジュースを買い、柚瑠の手の中に落とした。
パッケージを見て柚瑠がわかりやすく顔を顰める。


「俺これ嫌い」

「ダメ。朝ごはん重要」

「………」

「まぁわたしも嫌いだけど」

「嫌いなのかよ」

「美味しい一つ一つの野菜をぐちゃぐちゃにして、栄養ジュースって言った人の気が知れない。トマトジュースは許せるけど野菜ジュースは許せない」

「ぐちゃぐちゃとか…生々しい表現やめろ。……まぁ、金勿体無いし飲むけど。奢られとく。」

「ん」


何度目かになるかわからない欠伸をして、柚瑠がストローを挿し、野菜ジュースを飲み始める。
休憩と言いたげに時折小さくなる自販機の機械音。
並ぶ飲み物を眺めながら、緋鶴は喋る気配のない柚瑠へ視線を向けた。


「………」

「ん?」

「……飲むの早くないか?」


少し目を離した隙に、凹んでいるパックに唖然とした緋鶴に、どうしたとでも言いたげな視線を柚瑠が返した。
キューッ…ズゴッ……間抜けな音が、中身がなくなったことを知らせる。
解体しながら中身をストローで吸い上げる柚瑠。


「こんなもんだろ」

「え、無理無理そんな早く飲めない」

「苦手なもんを小分けにしてちびちび飲むのも辛いだろ」

「それもそうだけど…何その吸引力」

「俺は掃除機か」

「掃除機みたいにはやかった」

「掃除機は液体吸わねぇだろ。…つーか掃除機に吸引の早さとかあんの?」


紙パックが綺麗に潰されて、ゴミ箱にぽいっと投げられる。
綺麗な機動を描いて、ゴミ箱の中に着地した紙パック。


「……少しの間でたくさん吸えるとか」

「早さじゃなくて吸引力そのものだろそれ。結構馬鹿だな、紀野」

「はやく掃除終われるとか」

「……それは掃除機の使い手が上手いか下手かによる」


たわいもない話をしながら、ふと時計を見あげた緋鶴は小さく声を漏らした。


「どうした?」

「朝のST始まる、教室行こ」

「……めんどくさ」

「だめ行く」

「……はいはい」


柚瑠も時計を見上げ溜息をついた。
気づけば確かに、登校してきた時よりも人が動いたり話していたりする音が聞こえる。

授業はサボるくせにSTは出るらしい緋鶴。
柚瑠は急ごうと手を引っ張る緋鶴に素直に歩き出す。
昨日最初に手をつなごうとした時は照れていた緋鶴が、自分から手をとった。
朝や今の緋鶴を不思議に思う柚瑠は、それでも、自分からしてくれる緋鶴が可愛いためそこは口に出さなかった。

階段を上りガラッと教室の戸を引いた2人は同時に"失敗した…"と悟った。
3分の2は席が埋まっている教室、その生徒の人数と教師分の視線が2人に集まっている。
そしてその視線は繋がれた手に……。
柚瑠はそのままそっと戸を閉めた。

ホロ 2017/05/17(水) 21:15 [ 返信 ] No.159973
何度見ても笑っちゃいますw
夫婦漫才みたいで可愛い!

でも最後のシーンでやっぱり初々しく恋愛してるとこがいいですね…ニヤニヤしちゃいます!

タキ 2017/05/17(水) 21:43 [ 返信 ] No.159977
Lクラス


戸を閉めた柚瑠と緋鶴はその場に立ち尽くした。
教室の中もシーンとしているため、おそらく2人の方を見て間抜けな顔で固まっているのだろう。
2人はぼそぼそと小声で言葉を交わす。


「なぁ、紀野」

「……なに?香椎」

「………なんでSTは出んの?」

「……お知らせとか授業変更は知っといた方がいいかなって………?」

「……そ」

「あと…三者面談の時に余計なこと言われないように…?」

「あー、サボってる時点で意味ないと思うけどな、それ……。…それでだ」

「…うん」

「さぼろうぜ、今日一日」

「……ん」


こくり、緋鶴が頷く。
……と、そのタイミングを見たかのように教室の中がわっ!!と湧いた。
バンッと戸が開かれ、驚きに動けなくなる二人の前に必死の形相の男女が立っていた。
2人が男女をみて頭を抱えていると、2つの声が続けざまに廊下にまで響き渡った。


「ゆずもしかして紀野ちゃんと付き合ったの!!?1年以上越し片思い卒業!?うそうそうそいつの間に!!!?片思いの可愛いゆずはどこに飛んでっちゃったの!!紀野ちゃんが可愛くて悶え苦しむゆずはどこに!?!?」

「ひづ!!香椎君と付き合うの!?どうしてどうやって付き合うことになったの!?!?結構前から好きだったのバレたの!?男前ひづの乙女なところついに香椎君に見せちゃったの!?!?香椎君と話す度にどきどき耐えられないって言ってたのにどうしたの!?」


一人目は男、二人目は女の声だがどちらもきんきんに頭に支障をきたす程の声の高さ。
そしてそれぞれの内容に、2人は羞恥と怒りに頬を薄桃色にそめ、顔を片手で覆った。
2人を皮切りに、教室の生徒がざわめく。


「紀野ちゃん!!」

「香椎!!」

「おめでた!?」

「どうするべき!?お祝い!?」

「紀野ちゃーんっ!!!」

「つかやっとかよ!!」

「打ち上げ!!」

「なんの!?」

「お前ら騒ぎたいだけだろ!!」

「うわああああっ!!きーのーちゃーんつきあっちゃやだーーーーーっ!!!」

「香椎君結婚式呼んでくれなきゃ呪うからね!?」

「……おーいお前らおちつけー、せんせーST始められなくて困るー、ひづと香椎はおめでとー、……ねー聞こえないふりやめてー?」

「とりあえず照れ顔写メろ!!」

「かーわーいーいー!!いやん2人ともこっちむいてー!!」


あまりの惨状に、2人は放心。
担任の野崎もまだまだ若い新任教師でいつも素敵な笑顔を浮かべているが、流石に呆れ疲れ顔。
シャッター音やはしゃぐ声に他の教室の生徒や教室がちらっと廊下を覗いたりもしている。


「「……………」」


人の多い場所やざわめきが苦手な2人は放心状態が溶け始めると同時に、徐々に顔の表情を失い俯いた。
柚瑠が再び戸に手をかけると、乱暴に教室と廊下に隔たりを作った。
乱暴な音に流石に教室の生徒も、一瞬にして静まり、やりすぎた…とおろおろし始める。
柚瑠は俯いている緋鶴の頭を撫で、溜息をついた。
2人と担任の心が一致する――…このクラスの生徒は馬鹿ばっかりで、個性が強すぎる上に仲が良すぎだ……――――と。


「ねー?そう騒がないであげてねー2人が過ごしにくいからー。ひづはただでさえ照れ屋なんだから入れなくなっちゃうでしょー?」

「……つーか何気せんせー、たまに紀野ちゃんあだ名呼びだよね、なんで?」

「せんせーとひづの家にはふっかーいかんけ……やだやだ嘘、扉越しそんな冷たい目しないでひづ。せんせーとひづのお兄ちゃんが同級生で小さいころ遊んでたのよ。ほら2人とも入っておいで?次騒いだら…せんせーも直々にお口とお手手出して黙らせちゃうから大丈夫だよ」


この担任の名前は野崎詩乃。
巫山戯た言葉遣いに、ゆるりとした空気と容姿で生徒には人気だ。
生まれつきだという茶色の髪の毛はおざなりに整えられている。
事実、緋鶴の兄と繋がっている人物だ。


「ご、ごめんな?ゆず…嬉しくてつい……」

「ひづもごめんね…?余計なこと……」


1番初めに大きな叫び声を挙げた男が恐る恐ると戸を開けて謝る。
金色に染められた髪は色が落ちてきてプリン状態の頭。
柚瑠とは対照的な童顔に、明るい馬鹿で、運動大好きなわんこ系男子。
柚瑠とは幼馴染でとりあえず馬鹿な彼の名前は、水橋陸哉。

次に申し訳なさげに眉を下げて謝ったのは陸哉の次に叫んだ女。
明るい茶色に染められた髪はシュシュなどで纏められている。
綺麗系な緋鶴とは反対のオシャレな可愛い系の女の子。
性格は陸哉と似たわんこたいぷで、とりあえず馬鹿で、芸術が大好き。
緋鶴と中学からの付き合いの彼女の名前は村田舞美。


ぽつぽつと謝罪されると、柚瑠は大きなため息をついて緋鶴の手を引き、後ろの2席にそれぞれ座った。
緋鶴は俯き、柚瑠は気怠げに机に伏せて、なんとも気まずい雰囲気のままSTから授業は進む。
結局2人は昼まで教室から出ず、かと言って真面目に授業を聞くでもなく、負のオーラを纏ったまま席に座っていた。
今日は清々しい晴れ模様。
天気は晴れだというのにクラスは雨の日のように、普段より幾らか沈んでいた。

タキ 2017/05/17(水) 21:46 [ 返信 ] No.159978
最近コピペの間違いが多すぎて自分でイライラしておりますタキさんです(´・_・`)


ホロさん>>
男女の関係がどれほどのペースで進んでいくのかがわからず戸惑います…
でも初々しいなー、なんて思われていると嬉しいです(*´ω`*)

タキ 2017/05/18(木) 23:04 [ 返信 ] No.160052
M昼休み




4限目のチャイムがなり、号令もないままに数学の教師はそそくさと出ていった。
流石に昼となると2人の不機嫌オーラもまぁまぁ収まり、晴れた明るい教室。
柚瑠はのっそりと机から顔を上げ、緋鶴は眠たげに目を擦っている。
朝、柚瑠と緋鶴の2人の怒りをその身に間近で受けた陸哉と舞美は恐る恐るとそれぞれに近づいた。


「ゆ、ゆず…るさん!」

「……さんって何きもい」

「まだブルーっすか、ブラックっすか!?」

「……りく」

「なんでしょうかっ」

「いつもながら……ウザイ」

「あ"ああああっ!!そんな溜めたら本気だと思っちゃうだろ!?」

「本気以外の何者でもねえよ」

「ゆずーーーっ!!!?」


目の前で騒ぎ立てる陸哉の頭を筆箱で叩く柚瑠。
緩く叩いたように見えたそれは、見た目に反して陸哉の頭にダメージを与えていた。
そして筆箱から滑り落ちてきたハサミが目の前を通り過ぎ、陸哉は悲鳴をあげ再び柚瑠に叩かれる。
緋鶴は呆れたように陸哉を見つつ、ハサミを拾い上げ柚瑠の前に置いた。


「ひづっ!!!!」

「…………はーあ………………」

「何そのおっきいため息!!!!」

「声でかいうっさい黙れよ馬鹿」

「そうやって暴言を吐くひづがかっこいい!」

「……どえむ………」


緋鶴達から一番遠くの席にいる舞美が遅れて登場し、親友(?)の馬鹿加減が、隣で柚瑠相手に騒ぐ陸哉と同レベルなのだと思い出し、緋鶴は無表情に暴言を吐いた。


「で、何のようどえむ」

「舞美!」

「…どえむ舞美」

「名前みたいにしないで!?」

「で?」

「お昼!吐け!!」

「食べたもん出してどうすんだよ汚い」

「違うお付き合いの経緯を吐け」

「なんでお前如きに話さなきゃいけない」

「親友になんて言葉だ!!」

「き、紀野ちゃんこえぇっ」

「言っとくけどりくにも別に話す気ねぇし」

「ゆず様っ!?」

「紀野、飯」

「ん。どこで食べる?」

「晴れてるし中庭とか?」

「おけ、食堂行かないと」

「無視しないで!!!」

「何ナチュラルにお昼一緒発言してんの!?」

「「うるさい」」

「「……すんません」」


いつも通り静かな声の柚瑠と緋鶴に、いつも通り大きくうるさいほど元気な陸哉と舞美の声。
4人のやりとりは日常的なもので、平和だなと思う生徒が何人か、笑う者が何人か、チラ見する者が何人か………。
弁当を持ち立ち上がった緋鶴は、ぽつりと寂しげに立っている舞美と陸哉を見てまたため息一つ。


「何、私と香椎付き合ってるからって一緒にご飯まで食べないの」

「へっ?」

「い、いいの?香椎君」

「は?いいだろ別に」

「いやあの…ひづとふたりきりで食べたいとか無いのかな、なんて……」

「……後で日で決めればいいだろ。つーかりくも村田も、俺達以外の誰と食うんだよ」

「お、俺はそのへんふらふらぁっと」

「わ、わたしも」

「……2人で食うって発想は無いのか」

「「あっ!」」

「まぁ、どうでもいいけどね。私も香椎も気にしないし」


歩き出すと2人はスタスタと早く、何故か陸哉達は小走りというか急ぎ気味になってしまう。
それでも、距離が離れることはなく前の2人が一応は気にしてくれていると分かり、毎度毎度、後ろにいる陸哉と舞美はニヤニヤし、また暴言を吐かれている。
柚瑠と幼馴染の陸哉に、緋鶴の親友の舞美は暴言を吐かれても全く気にしないほどの馬鹿……ではなく、2人が単純に好きだった。
2人もそれを分かっているから面倒くさそうにしたり暴言を吐いたりしても、本気で振り払うこともなければ置き去りにもしない。


「てかなんで食堂?」

「……俺が弁当忘れたんだよ」

「香椎君が?珍しいね、いつも美味しそうなお弁当忘れちゃうなんて」

「……つーか出来てなかった」

「ほ?」

「……」


そこそこ混み合う食堂の中、緋鶴は柚瑠に弁当箱をわたし、カップの飲み物を買う。
弁当を忘れた柚瑠に不思議そうな目を向ける陸哉。


「昨日約束したの香椎が。明日迎えにいくから自分が行くまで絶対行くなって」

「へ〜、カップルっぽーい」

「でも紀野ちゃん、朝早い組じゃなかった?」

「……朝起きたら家の前に香椎がいて驚いた。7時から待ってたってさ。」

「……ひづ、いつも何時に家出てるっけ」

「7時40分」

「香椎君そんなに待ってたの!?」

「……待ってた、ねみぃ」


驚愕の目を向けられて柚瑠は不貞腐れてそっぽを向く。
緋鶴はくすりと笑った。


「あー…遅刻魔のゆずが普通の時間どころか早く出ちゃったから華さんも用意出来なかったのか」

「華さん…って香椎君のお母さんだよね?」

「ん」

「……はなさん……?」

「?なに、香椎」

「……んーん、なんでも」


中庭に出れば何組かが既に弁当を広げて昼食を取っていた。
雲もほとんど無いため、日が当たると少し暑いほどで、見つけた日陰に4人は固まって座る。


「で、香椎君がひづのお弁当食べるわけか」

「え、紀野ちゃん腹減らない?大丈夫?」

「ん。炭酸買った」

「えっ?」

「ひづ炭酸でお腹いっぱいになるんだって!」

「へ、へぇ…」

「………」

「今日はグレープフルーツ」

「……え、と…いつもは?」

「桃とか…?」

「とかって…ひづ学校ではその二択しか飲まないじゃん!!」

「紀野ちゃんグレープとかメロンとかオレンジとかレモンとかの炭酸は?なんで?飽きない?」

「ペットボトルってこと?無理、飲んでる間に飽きる。温くなるし炭酸抜けるし…」

「あ、あー…?そっかー?」

「……美味い」


緋鶴の発言になるほどと思えないのか、曖昧に笑った陸哉。
元から知っている舞美はぱくぱくとご飯を食べ、柚瑠も嬉しそうな顔をしながら緋鶴の弁当を食べている。
ゆっくりとカップの炭酸を飲む緋鶴はおかしいのかと首を傾げた。
舞美が、柚瑠を見ていいなとつぶやく。


「?」

「今週ってひづのご飯当番でしょ?」

「……まぁ」

「え、当番制?」

「ご飯と、掃除と、風呂玄関掃除と、洗濯と」

「私と1番上の兄がセットで、母さんと上から5番目の兄がセットで一週間交代でご飯当番。2番目3番目4番目の兄が掃除と風呂掃除と洗濯を交代で、7番目の弟と8番目の妹はそれのどれか手伝うか」

「………紀野、8人兄弟?」

「ん。10人家族。みんなかっこいい。」

「私まだ全員クリアしてない!!」

「しなくていい」

「……それで、紀野と一番上のお兄さんがこれ作ったって…?」

「んー、まぁ」

「……ん、美味い」

「……ありがと」

「…ひづと香椎君お似合いだよねっ!」

「いざ恋人同士になったからってなんでこう…昨日までの密かな照れはどこに行ったのゆず!!昨日までご飯もそんな4人で食べることなかったじゃん!!」

「そ、そうだよひづも!!一緒にいるだけでドキドキするんじゃなかったの!?なんで2人並んでそんな自然体!?」


少しの間静かに話しているかと思えば大きな声。
しかも、柚瑠と緋鶴にとっては余計なことだ。
2人の間に朝の時のような不機嫌オーラが漂う。







「「黙れよクズ」」







中庭の空気が凍りついた。
凍りつかせた本人達は素知らぬ顔で食べ物飲み物を口にしているが……。
陸哉と舞美は毎度毎度学習しない自分に軽く絶望する。
他の昼食を取っていた生徒を巻き込んだまま昼の休みは終わり、4人は教室に戻った。

まだまだ爽やかな青空の下、4人のクラスの23Hは再び気まずい空気に包まれていた。
柚瑠に加えて緋鶴まで不機嫌な様子で机に臥せっているのだ。
クラスメイト達は、馬鹿な自分たちよりもさらに馬鹿な陸哉と舞美の2人が、また余計なことを言ったのだろう、と恨みがましく2人を半目で見た。
見られた2人は、必死に頭を下げる。
しかし、クラスの全員が悟っていた。



……この2人、またやらかすだろうな。



と。
実際、2人はよく自分の幼馴染み親友を怒らせては、場の空気を凍らせている。
しかし、柚瑠と緋鶴の両人の機嫌を一緒に損ねてしまうことはあまりなかった。
2人のうちの1人でも機嫌が悪いと居心地が悪いのに2人ともとなると……とても手に負えないのだ。
しかも2人が怒る理由は理不尽なものではなく、馬鹿な陸哉と舞美が大体悪い。
勘弁してくれとそれぞれが心内でため息をついた。




………まぁ……………










……この比較的馬鹿が多い32Hがその空気に慣れるのには、それほどの時間は必要ではなかったようだが……。

タキ 2017/05/18(木) 23:10 [ 返信 ] No.160054
M昼休みオマケ






「ね、ねぇ村田ちゃん!」

「な、なんだい!?水橋君!!」

「紀野ちゃん…なんかさっきよりさらに機嫌悪くない?さっきまでゆずと同じくらいだったのに…!!」

「うーむ…香椎君が何かしたのかな?」


心無しか歩調が早く足音が大きく廊下に響く。
ざわざわとした廊下も明らかに"不機嫌です"といったオーラが漂うメッシュ入り黒髪メガネ少女に戸惑い静かになっていた。
その後をこれはまた不機嫌ながらも少しの焦りを感じさせて歩くメッシュ入り黒髪メガネ青年、お馬鹿そうな2人が続いてそれにまたその場にいた生徒達は戸惑っていた。


「ひーづー、どうしたの!!?」

「うっさい」

「ひづ様!!」

「……」

「香椎君何したの!?」

「いやあの…」

「………たまごやき……………」

「卵焼き?……あぁ、そういうことか!!」

「どういうこと!?」

「……あ」


むすっとして呟く緋鶴に舞美は笑い、柚瑠は申し訳なさそうにまゆを下げた。


「ねえ俺だけ分かってないよ!?」


陸哉は1人で騒いでいた。


「ひづは卵焼き大好きだもんね〜?お兄さんと二つずつ作るんだって。で、自分作ったのとお兄さんのとでお弁当に詰めてくんだよね。」

「……悪い、紀野忘れてた。朝言ってたな、卵焼き一つ食べたいって」

「ひづのは少し塩っぽくて、お兄さんのは甘いの。ひづはお兄さんの甘い卵焼きが1番好きだからね」

「あー、俺もあの味好きだった……。」

「お兄さん、ひづの味覚に合わせてるよねいつも。無意識かな?」

「卵焼き……」

「でも卵焼きが好きって意外だな、紀野ちゃん」

「……」

「ひづは意外にお子様舌だったりするんだよ!あ、でも味が濃いのは苦手かも!!あとは、コーヒー飲めるようになったの最近だよね!!」

「意外だな!?コーヒー飲みながら本読んでそうなのに!!」

「ココアだもんねー?」

「……うっさい」

「……俺もココア好き」

「………」

「………」


舞美がもたらす情報を、柚瑠が頭の中で反芻しながら記憶に残す。
少し恥ずかしげな緋鶴は、舞美の余計な言葉にさらに早足になった。
柚瑠がそんな緋鶴を慰めるように呟いた。


「………紀野」

「……何」

「明日作る」

「……?」

「ゆず!?」

「卵焼き、作ってやるから怒んな」

「香椎君料理できるの!?」


ふっ、と笑みをこぼした柚瑠が提案すると、3人そろって立ち止まりぽかんと柚瑠を見る。
陸哉はもともと柚瑠が料理を作れると知っていたが、家族以外には作らないために驚き、緋鶴と舞美は料理をすること自体に驚いていた。
ぽん、と緋鶴の頭を撫で困ったように笑う柚瑠。


「一人暮らしでも困らない程度にはできる。卵焼きも作ったことはある。妹が好きだしな。」

「……でも、香椎朝………」

「あー……。……明日遅刻する。」

「……馬鹿じゃないの」

「食べたくねえのか」

「……食べたい」

「俺もっ!!」

「は?」

「うわあああ!?すいません何もないです!!」

「わ、私も食べたい!!」

「村田は………。……………いや」

「なんで迷ったのに拒否るの!?」

「村田が紀野の料理食ったことあるって思ったら殺意湧いた」

「「殺意!?」」


そわそわと嬉しそうな緋鶴。
柚瑠の制服の袖を引っ張ると甘えるように見上げた。


「っ……なに?」

「……絶対」

「…………。…可愛すぎか、卵焼き一つで……。まぁ、絶対、な?」

「…ん」


少し前までの気まずさが嘘のように、ほのぼのとした穏やかな空気を醸し出す柚瑠と緋鶴。
しかし、ここに馬鹿が2人もいることを忘れてはいけない。


「俺達のこと無視すんなよバカップル!!!」

「そうだよ!!!大事な親友放り出して何いちゃいちゃしてんの!?!?」

「付き合いたてのくせに!!!!」

「私と水橋君も入れてよ!!!!」

「つーか卵焼き食わせてゆず様っ!!」

「ゆず様!!香椎様!!!ひづの取っちゃうよ!?」

「「…………は?」」


廊下が凍った。

タキ 2017/05/19(金) 18:24 [ 返信 ] No.160085
N1日


放課後の図書室は人が少ない。
大学か、と思われるような立派な図書室だが、不真面目な生徒が多いこの高校では訪問者はほとんどいない。
並べられただけの多くの机に付属された椅子。
そんなシンと空気が鳴る図書室の中、一組の男女が本を読んでいる。


「なぁ、紀野」


本をめくる音と時計の音以外に変化のなかった図書室に、変化を与えたのは黒縁の眼鏡をかけた、ゆるりとした空気を持った男子生徒。


「…なに、香椎」


返した彼女もまた、視線をあげず本に目を落としたままだ。
黒縁の眼鏡をかけ、柚瑠とは違う穏やかな空気をまとっている。
いつもの放課後の図書室。
しかし、いつもと違う点が一つだけ。


「紀野って小さい頃から本好き?」

「……まぁ。今更だね、その質問。」

「気になっただけ。」

「……ひとり遊びが多かった。」

「8人も兄弟いるのに?」

「1番上は受験、次の三つ子はやんちゃに遅くまで外で遊んでたし、5番目も同学年の子と遊んでた。そのやんちゃな4人は家中騒がしくしてた。弟と妹は赤ちゃんだったからかあさんも父さんもかかりきりで、みんな弟と妹に夢中だった。」

「あー……」

「私、元々赤ちゃんの頃から、手がかからない大人しい子だったみたい。そしたらみんな、大人しいわたしよりも、他の兄弟に構ってた。誰も構ってくれなくてすることがひとり遊びしかなかった。」

「……へー…………。」

「寂しかったけど仕方ない。大所帯だから。でも、ひとり遊びは嫌いじゃなかったし、本を読んだらいろんな世界が見れて楽しかった。」

「……俺も似たようなもん。」

「……?」

「うちは六人兄弟で俺が4番目。上3人が男でした2人が女。1番上は受験だったし、その下2人はやんちゃで、妹2人も赤ちゃんだった。俺もひとり遊びばっかりだった。本が好きなのも、俺もその影響か」

「……やっぱり何かしら似てる、わたしと香椎」

「ん…」


変わったのは2人の距離感。
向かい合っていた2人は横に並んで近くなった。
元々緋鶴が座っていた席の隣に柚瑠が座った。
時折、柚瑠が緋鶴に話しかける。
昨日…いや、一昨日よりもその回数は増え、話している時間も長い。


「疲れた」

「思った以上に騒がれたな」

「舞美のせいだ」

「りくのせいだ」

「馬鹿のせいだ」

「馬鹿しかいない」

「詩乃君のせいだ」

「野崎さん、そんなに紀野の家に行く?」

「まー、ね。よく勉強も教えてもらう。」

「あの人先生ぽくない」

「だって昔香椎みたいだったし」

「は?」

「不良ぽかった…みたいな?今の香椎みたいな生活してたと思う。まぁ、詩乃君は勉強がおバカさんだったけど。……詩乃君は、おバカさんなのに勉強がんばったから、教えるの上手だよね。」

「………」


今日1日を振り返り2人はため息をつく。
自分たちがあの馬鹿な幼馴染みや親友、クラス、自由人な担任が、嫌じゃなく寧ろ好ましく思っていることにもため息をついた。
うるさくて面倒くさくて鬱陶しいこともあるが、柚瑠と緋鶴の苦手が揃っているが、何故か嫌いに慣れない。
だからと言って今日のように1日教室にいると流石に疲れてしまうのだ。


「……今日は早めに帰る」

「何かあるのか」

「眠い」

「……俺も眠い」

「今日は帰ろ」

「ん」


ここも変わった所だろうか。
一昨日までは一緒に帰ることはなかった。
帰る、と言いおいてどちらかが先に家路についていた。
昨日の柚瑠の告白の後から、今日も再び一緒に下校。
まだ夕日だ夕やけだという時間ではない。


「こんなに明るい時間に帰るの久しぶり」

「30分しかいなかったからな、今日」


不真面目な成都が多いこの学校でも、部活だけは真面目な生徒が意外と多い。
練習も真面目に!とは言えないが楽しげにやっているあたりがいい学校だろう。
帰宅部…無所属の2人は、目立たないように巻き込まれないようにグラウンドの端を歩く。
下手な場所を歩いて邪魔になればまた面倒だ。


「「……元気だな」」

「………。香椎、何で部活入らなかったの?」

「長くやると飽きるから」

「あー……」

「たまに、そういう体育館とか行ったり、大人に混ざったりするのが丁度いい。」

「身体動かしたくならないの男子って」

「だから夜遊びしてんじゃん」

「え、喧嘩とかってやっぱりそんなにしてる?」

「たまに。でも俺達の集まりはいい子な不良が多いから、何故かボランティア活動とか参加してる」

「矛盾してるけどいい子だな」

「夏とか保育園とか児童クラブ行ってみたり」

「え」

「ちびっ子は元気すぎてセンセー方じゃ手に負えないらしい。結構喜んでくれる。」

「………不良と子ども」


学校にいるちゃらちゃらとした生徒を思い浮かべて緋鶴はくすりと笑う。
普段は教師を振り回す彼らが、幼い子供に振り回されていると思うと微笑ましい。


「紀野は部活は?」

「わたしも長続きしない。決まった時間に決まったことする感じが好きじゃない。好きな時に好きなことしたいから入らなかった。」

「村田入ってんじゃなかった?」

「舞美は美術と技術が超人的に優秀だから。小さい頃から賞とってるらしい。そっち系の人では知ってる人は知ってる。」

「……あの学校、設備だけはいいからな」

「ん。いろいろ今まで見れなかったのとか触れなかったもの、近くになかったものまでたくさんあるから楽しいって。舞美の作品は好きだ。生きてる感じして。」

「へぇ…」

「水橋は陸上部でしょ」

「あー……りくの家に昔から犬たくさんいるんだよ。んで、いつも戯れて追いかけて追いかけられて、いつの間にか早くなったらしいな」

「思ってた以上に水橋が野生児なんだけど」

「犬追いかけて山走り回ってた。木登りもする。何故か山の食い物の知識を身につけた完璧野生児。」

「泳げなさそう」

「川で遊んでたらしい」

「なんだ、野生児か」

「野生児だ」


何やら失礼なことを言いながら歩き、段々と夕焼けのじかんと言ってもいいような空の色。
昨日感じていたよりも早く緋鶴の家にたどり着く。
今日も明るく騒がしい我が家に緋鶴は可笑しそうに笑う。


「?」

「教室も家も元気な人ばっかりだ」

「……だな」

「香椎、気をつけて帰りなよ」

「ん。」

「明日、卵焼き。」

「わかってる。三種類くらい作るからオカズ一つ減らしといた方がいいかも」

「わかった」

「弁当美味かった、ありがとな」

「ん」

「じゃぁな」

「ばいばい」


昨日のように柚瑠の姿が見えなくなるのを見届けて、緋鶴は家の中に入った。
ただいまと言うと何重にもして返ってくる"おかえり"
毎日こいつらはなにしてるんだとまた笑い、緋鶴は自室で横になる。
帰り際、柚瑠に撫でられた頭。
気持ちよかったな…と思い出しながら、緋鶴は夕飯の支度前まで眠りについた。

タキ 2017/05/19(金) 19:31 [ 返信 ] No.160093
なんだろう…タキさんの勝手な持論だけど、つーか自分でやってたから他人から見たらは?って思われるかもだけどの話

コメント欲しいって言ってるからコメントしよ、って感じのコメントはほんとのコメントと違うような違わないような……?
…違うんだよ!?タキさん全力でコメントとかイラスト欲しいんだよ!?!?
でもなんか…最近ふと(あれ…コメント欲しいって言うのは違うんじゃね……?読んでくださっている人が、コメントしたいって感想書きたいって思えるモノ書く努力しなきゃなんじゃね?いいと思っても悪いと思っても、読んでくださっている方が自発的に書いてくださるからいいんじゃね?あれ?コメント欲しいって書かない方が…いい………?……のか?)っていう無限ループに陥ってア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!て感じナンデス、ハイ

自然とコメント書いてもらえるようなものにしたい……
コメント求めるから良いのが書けないのかなああああああっ!!!





愚痴デシタ

タキ 2017/05/19(金) 19:47 [ 返信 ] No.160096
O卵焼き






「卵焼き………」

「紀野、流石に自分の名前より先に食い物の名前言われると俺が可哀想」

「……はよ、香椎」

「なんだその間は。……まぁ、はよ紀野」


3時間目が終わる頃に眠そうに目を擦りながら教室に入ってきた柚瑠。
伏せていた顔を上げた緋鶴はぽつりと単語を吐き出す。
それを聞いた柚瑠は苦々しい笑みを浮かべた。


「はいはい、香椎君は座ってね。もう当然のように遅刻するのやめようね。」

「……俺、卵焼き作ってたんだよ鴨野せんせ、おはよ」

「おはようよりこんにちはだねぇ…早起きしなさい。授業中寝てもいいから。」

「いいのかよ」

「よくないけどねぇ、君と紀野君は嫌味なくらい現代文ができるからねぇ……。ただ、空の席があると寂しいからねぇ。先生のは出てほしいねぇ。」

「んー、じゃぁ時間割くらいは見るようにするー」


4時間目のちょうど現代文の時間。
現代文教師はそろそろ定年だろう鴨野という男性。
穏やかでなかなか面白い授業や話をしたり、生徒と対等に話してくれたりするので不真面目な生徒にも人気な珍しいタイプの教師だ。


「そうしてくれると嬉しいねぇ。」


チャイムが鳴り響く。
鴨野はそのままのんびりと授業の終わりを告げ、教室を出ていった。
大概テキトウな教師だ。


「鴨野せんせの授業に遅れるとすげぇ罪悪感…」

「間違えてサボった時の罪悪感もすごい」

「ゆずーーーっ!!!」

「うるせえ黙れ野生児」

「野生児!?!?」

「……卵焼き」

「ひづ、なんかそれ香椎君が卵焼きみたいだよ!!やめたげて!!!」

「……村田、俺が可哀想だから言葉にするな」

「行こ、香椎」

「…珍しく積極的っつーか、なんつーか……」


柚瑠はため息をついてどこかへと歩いていく緋鶴についていく。
舞美も緋鶴にじゃれつき前を歩いていて、暴言を吐いても雑に扱っていても、緋鶴と舞美が親友だとわかる。
手を繋ごうとする舞美に、手を叩き落とす緋鶴。
制服の袖を引っ張る緋鶴に、嬉しげに笑う舞美。


「村田ちゃんと紀野ちゃん仲良しだよねー」

「………んー」

「ヤキモチ?ゆずヤキモチ??!」

「ヤキモチっていうか……嫉妬…?」

「ん"っ!?」


後ろを歩く柚瑠と陸哉は2人…舞美のじゃれつく姿に暖かな……生暖かな視線を送る。
どこかつまらなさげな柚瑠を陸哉はからかうが、割と本気で言葉を返してくる柚瑠に陸哉は戸惑った。


「ゆ…ゆず、本気の本気だね!!」

「……本気以外の何があんだ」

「いや、あの…ゆずって飽きっぽいから」

「………恋愛むいてないと?」

「そこまでは言わないけどさ!?」

「……」

「紀野ちゃん大好きだねー…」

「傍にいなくなった瞬間に家で飼い殺したいくらいには好き。首輪つけたいって冗談で言ったらかなり怒ってた」

「そりゃそうでしょ!?何飼い殺しって!!!首輪って!!!狂気を感じる!!冗談に聞こえない!!!」

「………」

「本気だったでしょ!?コスプレでもいいからつけさせたいとか思っちゃったでしょ!!」

「……あー………」

「ゆずさんっ!!?」

「……だって紀野がねこっぽいから」

「……そんな問題じゃないと思うよ俺は…」


記憶が無い頃からの付き合いだが、柚瑠はどこからこんなに狂気的な人間になったのか、と陸哉は空を仰いだ。
灰色の雲が浮かんでいる。
午後は曇りだと知らせた天気予報は当たりそうだ。
隣の人間は、緋鶴にじゃれる舞美を見て、イメージで言えば今は灰色。
陸哉は隣の人間…柚瑠が真っ黒にならないように心の中で祈った。
曇りのせいか、緋鶴が入っていったのは空き教室。


「へー、結構綺麗な教室」

「……掃除してるから」

「紀野ちゃんが?」

「ん」

「……ここが紀野のサボり場か」

「…たまに」

「……へぇ」


本当の教室と言うよりかは物置スペースになっている。
予備用だろう、机と椅子が同じ高さのものを6つで高さは三種類。
18個の机と椅子が綺麗に高さを揃えて、列を整えて置かれている。
そして後ろには破れた場所がある、相談室等にありそうな二人がけのソファーが2つ。
足が畳まれた長机が大体8本、皮が破れたパイプ椅子が10個を3セット。
どこかの教室で不真面目な生徒に蹴られたか殴られたかして凹んだ棚が一つ。


「へぇ……」

「………なに」

「……俺もサボる時ここに来る」

「……え」

「紀野、嫌?」

「…あー……んー…」

「一緒にいられるし」

「……ん」

「日も当たるし気持ちよさそうだし」

「んんー……」

「ひ、ひづ首横に振ったらだめだよ!!?嫌じゃないって言ったらダメだからね!?」

「そそそそうだよ紀野ちゃんっ!教室から離れた教室で男女がふたりきりなんてだめだよ!」

「じゃぁ…ごめん、香椎、だめ」

「「よく言った!!」」

「チッ…余計なこと言うな野生児」

「俺だけ!?」

「……と、村田」

「私オマケ!?!?」


何やら怪しい笑みを浮かべた柚瑠。
陸哉は先ほどの狂気的な発言とその笑みに、舞美はその笑みと陸哉の青くなった顔に危機感を覚え慌てて緋鶴に身を乗り出す。
頷こうとしていた緋鶴は2人の必死の形相に、眉を寄せて申し訳なさげに柚瑠に謝った。


「そんなことより卵焼き…」

「流石ひづ……色気より食い気」

「あ、でも…」

「「「?」」」

「詩乃君が良いって言ったらいいと思う」

「……野崎さん?」

「詩乃君もよくここに来る」

「「「………」」」

「……野崎さん、ね。後で聞いてくる」

「ん。」


机を合わせて4人で向かい合う。
緋鶴の前に座った柚瑠は緋鶴の弁当の蓋を開けると、そこに三つの卵焼きを置く。


「甘いやつと普通のやつ、もう一つがハムとチーズ入り」

「ハムチーズ…」

「嫌い?」

「んーん、好き」


乗せられた卵焼きを見て嬉しそうに笑う緋鶴。


「今日はハムチーズかー紀野ちゃんいいな!」

「いつも何入れるの?香椎君は」

「梅干しとか青のりとか…?入れても不味くなさそうならそこら辺にあるヤツ入れる」

「う、うめぼし…」

「意外と美味い」


ぱくぱくぱくぱく、口の中に弁当の中身を入れていく緋鶴。


「……ちゃんと噛めよ?紀野」

「?」

「消化に悪いだろ」

「ん。」

「美味い?」

「……おいしい」

「んー」

「香椎、」

「ん?」

「また作って」

「まじか」


行儀よく、ごちそうさまでしたと手を合わせる緋鶴。
緋鶴の言葉に、柚瑠は苦笑いした。
弁当を作る時は早起きしなければならない。
緋鶴に弁当を作るのはいい。
早起きしなければならないのは苦痛だった。


「紀野ちゃん一週間交代で弁当係なんでしょ?紀野ちゃんの週の水曜日とかに弁当自体交換したらいいじゃん!!」

「あー…なるほど。そうするか紀野」

「ん。今週はもう無理だから次の週から。」

「まぁ、近くなったら言って」

「卵焼き」

「……次から一種類な」

「うん」

「交換でいいのか」

「ん。ちゃんと作ってね」

「あー…」


思った以上に卵焼きが気に入ったらしい緋鶴に、柚瑠はこれからの味付けどうしようとぼんやりと考える。
弁当ごと交換となれば、さらに早く起きなければならない。
いつも作っているらしい緋鶴は全く気にしていないが、いつも遅刻している柚瑠は…。
柚瑠は夜遊びをして寝過ごす自分を少しだけ呪った。

嬉しそうな緋鶴に、午後からのクラスは外が曇りに関わらず、穏やかで温かなもので包まれていた。

タキ 2017/05/20(土) 07:49 [ 返信 ] No.160141
Pさぼり






「……舞美」

「はいっ!!」

「眠い」

「ん"っ!?」

「寝る」

「ぇ…い……行ってらっしゃいませ!?!?」

「うるさいな…」

「理不尽!!ねえ、ひづ理不尽だよ!?」


1時間目が終わるか終わらないかのころの時間。
つまり授業中。
何かを説明をしている教師の言葉を聞きもせず、遠い席にいる舞美に告げると堂々と緋鶴は教室を出ていく。


「き、紀野さん…授業はまだ」

「緋鶴ちゃんがっ…!!」

「紀野ちゃん安定だね…」

「ひづ…せめて1時間目終わってから行って……」

「紀野ちゃんってサボるときいつも授業の途中じゃない?どう村田ちゃん」

「うん…なんかねー、何分いれば出席扱いーとかあるっぽい!だからだと思うんだよね。寝てても出席にはなるじゃん!って言ったら、叩かれたら痛いからやだって!!」

「紀野ちゃんの基準がよくわからない」

「ひづは気分屋さんだから!!香椎君ならわかるんじゃない!?」

「ゆずかっ!」

「……あ、あの授業中なのでもう少し静かに………」

「香椎君、ひづのこと私よりも知ってそう!」

「それな!」

「ひづは香椎君のこと水橋君よりも知ってそう!!」

「え"っ!?!?」


舞美と陸哉がはしゃぐとクラス内の空気も高揚する。
気弱な教師の弱々しい声を聞き取った生徒はどれだけいるだろうか…おそらくいないだろう。
授業の終了のチャイムがなっても前を向かない生徒達に、この教師は肩を落として職員室へと帰っていった。



















教室を出た緋鶴はいつの日か柚瑠と舞美と陸哉を合わせた4人でご飯を食べた教室に来ていた。
掃除ロッカーからほうきを取り出してさっと床を掃くと、下に柔軟やヨガなんかで使われそうなマットを敷いた。
手馴れた作業である。
そのマットはどこから手に入れたのか。
机でマットの周りを囲みちょっとしたバリケードを作った…地震が起きた時に顔が潰されそうだ、緋鶴はいつもそう考えながらバリケードを作っている。
緋鶴はマットの中に横になり、いつも学校に来る時に着ているパーカーを布団がわりに被った。
朝の暖かな光の中での昼寝だ。






ぽかぽかぽかぽか
日が昇り、身体も暖かくなってくる。
暖かな心地よさの中、目を覚ました緋鶴はパーカーの中に埋もれようともぞもぞ動く。


「紀野?」


再び目を閉じようとした緋鶴は、上から振ってきた声に、ぽーっとしながら顔を上げた。
最近、緋鶴の耳にすっかり馴染んでしまった低く落ち着いた声……柚瑠の声だ。
柚瑠は、30分ほど前に自分の膝の上に乗せた緋鶴の頭を優しく撫でた。
そう、柚瑠が登校し、教室に緋鶴がいないことに気づき、緋鶴のさぼり場であるこの場所に来て、緋鶴の寝顔を見始めたのは約45分前。
15分ほど緋鶴を見つめ続け、我慢が出来なくなり膝の上に乗せて30分も経っている。
その間、緋鶴が起きそうになることも一度もなく、今やっと目を開けたのだ、
しかも寝ぼけている。
もう少し危機感を持って欲しい、柚瑠は切実にそう思った。


「……はよ、紀野」

「かしい?」

「あぁ。」

「は、よ……」

「ん。」


目をこすり、目を覚まそうとする緋鶴の手を掴むと、そっと緋鶴の目の上に手のひらを置いた。
ぴたっと緋鶴の動きが止まる。


「起きなくていいから擦るなよ」

「……ん」

「あと、考える気力あるなら今の状況を1回真剣に考えような」


柚瑠の足が痺れているわけではない。
ただ、柚瑠と緋鶴がこんなに近くで触れ合うのは初めてだった。
付き合ってまだ2週間ほどで、会話が増えたり、手を繋いだりするくらいしか進展がない。
デートなんてしたこともない。
柚瑠にとって、自分からしたとはいえ膝枕はなかなか厳しいものがあった。


「………」

「………」


柚瑠は緋鶴の目に乗せていた手を退けた。
ぼーっと緋鶴を見下ろす柚瑠の目と、眠さにぼーっと柚瑠を見上げる緋鶴の目がばっちりと合う。


「………」

「……かしい…………?」

「ん。」

「な、なんで……」

「教室行ったら紀野がいなかったから探しにきた。そしたら寝てたから目も覚まさないし膝枕した」

「………」

「寝顔可愛かった」


少し経って顔を赤く染めていく緋鶴にくすりと笑う。
告白…プロポーズをした時並に顔を赤くし、しかし、驚きすぎたのか膝の上から起き上がる気配はない。
体を起こさない緋鶴の頬をそっと撫でた柚瑠。


「っ……」

「俺だから良いけど、知らない奴がここに入ってきてこうしてたらどうする?紀野はなにもできない。」

「……ご、めんなさい…………」

「先生に鍵もらうか入口にもバリケード作るかすること。それかここで昼寝したい時は俺がいる時にすること。」

「…香椎が?」

「俺がいれば知らない奴も入ってこない。わざわざ俺に喧嘩売る馬鹿はいない。」

「……香椎がいる時はちゃんという」

「俺がいない時は村田かりくに言うこと。昼寝の時だけでいいから。2人には俺も言っとく」

「……ん」

「俺も眠くてもすぐ来るから我慢して」

「………努力する」

「ん。努力して」


目を逸らして呟くと緋鶴が左腕で目を覆い隠した。


「で、まだ寝る?」

「……寝ない」

「起きる?」

「起きる…」

「……」

「……」


沈黙がおりる。
緋鶴が起き上がらない。
柚瑠は緋鶴がいるため下手に動くことができない。


「………」

「………」

「…どうした」

「……力入らない」

「………」

「……びっくりした…………」

「………ほんと可愛い…………」


腰が抜けたらしい緋鶴。
柚瑠は口元を手で隠し悶えた。
お互いよくサボることはあるが、一緒にサボることは無かったため新鮮な時間だ。

まわりに誰もいない空き教室は太陽の光だけが降り注ぎふたりを包む。

ふわふわふわふわ

いつもの放課後の図書室のように、緋鶴の身体の力が戻るまでぽつぽつと2人は言葉を教室に響かせた。
授業開始終了の音も聞こえていないように、今までの中で1番長くの時間を2人で過ごした。


「なぁ、紀野」

「なに、香椎」

タキ 2017/05/20(土) 14:55 [ 返信 ] No.160177
Qさぼりちゅー






「なぁ紀野」

「なに香椎」

「………デートしよ」

「……えっ?」

「何」

「いや、え…。……でーと………」

「なんでそんなたどたどしいんだよ」


起き上がることを諦めた緋鶴は、くるっと仰向けから俯向けになり柚瑠の腹に顔を埋めていた。
さらさらと緋鶴の細い髪を梳きながら誘う柚瑠に、緋鶴は顔を上げる。


「……どこに」

「紀野はどこに行きたい?」

「………」

「………」

「「……本屋?」」

「……しかない」

「本屋巡りでもするか」

「でも今週雨多い」

「だめだな、濡らしたくない」

「……いつ行くつもりで言ったの」

「いつでもいいからしてみたいと思った」

「……そ」


どうかと問いかける柚瑠を数秒見つめると、緋鶴はゆっくり口を開いた。


「……うち、遊びに来る?」

「は?」

「泊まる?」

「ちょっと待て」

「いつもいろんな人泊まってるから1人ふたり増えたところで誰も気にしない」

「違うそういう問題じゃない」

「それにたぶん、香椎が知ってる人結構いる?」

「……俺が知ってる人?」

「ん、たぶん。」

「……そ」

「来る?」

「……いいのか?」

「ん」

「…じゃぁ、行く」

「んー」


緋鶴の提案に柚瑠は戸惑わされながらも、うなずいた。
上げていた顔を、再び柚瑠の腹に埋める。
開き直ったのかどうなのか、躊躇う様子のない仕草に、柚瑠は複雑な気分になる。
緋鶴はいつも誰かにこんなことをしているのだろうかと。


「……なぁ、紀野」

「何、香椎」

「誰かによくこうやってんのか」


気になれば聞くしかない。
髪を撫でる手は優しくも、ほんの少し低くなった柚瑠の声に、緋鶴はふと動きを止める。
シン、と音が鳴る。


「……」

「……誰にでもはしない…。…いいと思った人にだけ…。」

「……」

「家族とか…その友達。うちに昔から…小さい頃からよく来る人だけ」

「……そ。あんまりすんなよ」

「……できるだけ」

「…ま、今はそれでいいか」


ため息をついた柚瑠は、しょうがないなと笑った。


「……はつでーと」

「初?」

「……だってつきあったの香椎が初めて」

「へー、それはよかった」

「……香椎は初じゃない感じ」

「上の彼女の買い物に付き合ったことはある」

「お兄さんの、彼女…?」

「そ。誕生日プレゼントやらクリスマスプレゼントやら。結構ある。」

「……そういうでーとならわたしもたくさんある。上にたくさんいるし…逆に上の彼女さんとでーともする」

「恋人としてのデートが初なのは…一緒ってことだな」

「ん。……だから、怒らないで」

「だからって…。怒ってないからな、気にしなくていいから紀野は」


やや不安そうな緋鶴に、困ったように笑うと柚瑠はそっと髪を撫でる。
すると猫のように手に擦り寄り、きゅっと抱きついて甘えた様子を見せた。
手触りの良い緋鶴の髪を触るのは好きだし、体勢はいろいろな意味できついが、緋鶴に甘えられるのも嬉しい柚瑠。


「………」


髪を撫でている間にちらりと覗く緋鶴の項。
健康的な白い肌。
ふとそこを見てしまうと柚瑠は目が離せなくなりそっと髪をわけた。


「?」


不思議に思った緋鶴が顔をあげようとするが、宥めるように撫でられると動けない。
柚瑠はさりげなく、緋鶴が頭を動かせないように抑えて、上半身を屈めた。
優しく、静かに、柚瑠は緋鶴の露わになった肌にキスを落とす。


「っ!?」


いきなりの感触に驚いたのか、びくっと緋鶴の体に力が入った。
柚瑠はすぐに顔を離して、髪を戻し、またあやす様に撫でた。
動揺と混乱の色を瞳に浮かべて見上げる緋鶴。
くすりと笑った柚瑠は、緋鶴の目を手で覆った。


「シャツのボタン開けるなら一つまで」

「…なん、で………?」

「肌見えるから」

「?駄目なの」

「暑かったら扇いでやる。ひとつ空いてれば別に苦しくもないだろ」

「……わかった」

「ん。いい子」


授業の終了と思われるチャイムが響いた。
柚瑠はのそっと起き上がった緋鶴から櫛を受け取り、髪を整えた。
付き合い出してから何かと自分の世話をする柚瑠に擽ったくなりながらも、緋鶴はされるがまま。
一ヶ月も経っていないふたりの仲はかなり進展していて、言葉少なな中でもお互いのことをわかっているようだ。

廊下がざわついている。
先ほどのチャイムが昼休みの始まりだったのだろう。
緋鶴の髪を梳かし終わると、2人は立ち上がりいつもの昼休みを迎えるために教室に戻った。

タキ 2017/05/20(土) 22:19 [ 返信 ] No.160241
Qさぼりちゅーおまけ






「ひづ!!!」

「…………。…………………なに」

「そ、そんなあからさまに!なにこいつめんどくせえ顔してんな、無視しようかな…いや返事してやるか……無視して暴れられてもウザイし……。って顔しないで!?」

「……舞美」

「な、なんでございましょう」

「お前いつから宇宙人になった」

「もとから宇宙生まれの地球生まれですよ?!」

「……あれ?……あー、あれだ、いつからエスパー?になった」

「ほんとに思ってたんですね!!?」

「……お前うるさいな」

「理不尽!!!」


昼休みになって、柚瑠と帰ってきた緋鶴に、舞美と陸哉は一瞬で2人があの教室で2人きりでいた事を悟った。
つい最近注意したばかりだというのに、さっそく人通りの少ない教室で柚瑠と2人きりになった緋鶴に、舞美のエンジンがかかった。
……が、マイペースな緋鶴の発言に流され本来の目的を見失っている。


「もともと変なやつ…ってかヤバイやつだとは思ってたけどエスパーになるとは……舞美、レベル上がったな」

「変なやつって私のこと!?やばいって!!?あとエスパーじゃないよ、ひづが顔にそのまんまだしてるんだよ!!!!」

「む、村田ちゃーん、紀野ちゃんにはもっと大事な話があるでしょーっ?」

「そうだった!」

「はっ、バカが」

「…馬鹿だね村田」

「お黙り!ひづも香椎君もそこに座りなさい!!」

「「やだ」」

「お座り!!!!」

「「………」」


舞美の剣幕に面倒くさくなったのか、2人は大人しく床に座った。
明らかにお説教タイムである。
珍しい光景にクラスメイト達がざわめく。
しかし当のふたりは眠たげに目を擦りぼーっとしている。


「いい!?2人はまだ高校生なの!!香椎君は盛りのついた獣なの!!!!ひづは人も通らないような場所で香椎君とふたりっきりになったらだめ!絶対だめ!!!無防備!!!!間違えても香椎君の前で寝ないこと!!!!」

「「………」」


事後だった。


「絶対だよ!!!?ひづは可愛いの!!綺麗なの!!男子に襲いたいなーとか思われても当然なの!!私も思うことあるから!!!!!!!!だから絶対、無防備な姿を無闇に見せちゃダメだからね!!!!!!!!それと、それにっ……」


こんな感じの説教がずっと続き、お説教が終わったのは大体30分経った後だった。
長すぎである。
しかも途中何やら怪しいことを言われ、緋鶴の背には寒気が走り、柚瑠は舞美を睨んでいた。
聞いていたものは、確かに…と頷くものも多く、笑いをこらえるように肩を揺らしていた。


「それでっ――……獣―――香椎君が―…………ひづ―――……―――だからね!!わかった!?2人とも!!!」

「「………腹減った」」

「!?」


お説教モードになった舞美も、マイペースなカップルには勝てないようだ。
陸哉は舞美を慰める。
クラスメイト達は眠そうに目を擦りながら空腹を訴えている、いつもより幼げなカップルに心をヤられ、菓子を献上していた。

タキ 2017/05/21(日) 10:28 [ 返信 ] No.160271
R初!家でーと





「……ほんとに泊まっていいのか」

「ん。」

「……色々段階飛ばしすぎだろ…………」

「?なんか言った??」

「……いや、なんも」


すたすたと玄関に向かう緋鶴に聞こえないようにぼそっと呟く柚瑠。
デート、しかも初。
それが家デートってだけならまだいい、泊まりってなんだ泊まりって……。
柚瑠はふと、緋鶴には5人もの兄と弟妹がいることを思い出した。
そして、いるらしい俺の知り合い。
……倫理上の不安はない、ということか。


「ただいま」

「…お邪魔します」


緋鶴が柚瑠の葛藤を知る由もなく、躊躇いなく玄関の戸を引いた。
その声を聞いた住民が出迎えにでてくる。
その顔を見て柚瑠は呆気にとられた。


「……何してんだ父さん」

「おかえり、ひづ。柚瑠はここに来んの初めてだな。」

「…?」

「たーくん、ただいま。……やっぱり香椎ってたーくんのうちの子だったんだ」

「……たーくんって」


会話のとおり、出迎えたのは柚瑠の父親。
何故…と、怪訝そうな顔で見てくる柚瑠を笑って、龍樹は緋鶴の頭を撫でた。


「柚瑠、穂鷹分かんだろ」

「……あぁ」

「ひづは穂鷹の6人目、長女だ」

「………。……はっ!?」


穂鷹というのは緋鶴の父親で、龍樹とは幼馴染だ。
ふたりはお互いの家をよく行き来しているため、緋鶴は龍樹を、柚瑠は穂鷹をよく知っていた。
自分の父親に頭を撫でられて嬉しそうな緋鶴に、柚瑠は恨みがましい視線を龍樹に向けた。


「……ね、香椎、知り合いいたでしょ」

「知り合いどころの話じゃないし…紀野は知ってたのか」

「香椎、たーくんときーくんと混ざった感じで似てる」

「きーくん、って……桔梗か?」

「ん。ひい兄……緋鷹わかる?きーくんに会いに香椎のうち行ってた。ひい兄が1番上のお兄ちゃん」

「……まじか」

「ん。ひい兄が長男。きーくんと同い年。香椎の家よく行ってたと思う。あーくんとつーくんもよく来る」

「あーくん…は……青葉か……。んじゃつーくんは椿樹………」


香椎家の長男が桔梗で27歳、次男が青葉で23歳、三男が椿樹で19歳、そして四男で柚瑠がいて、その下に双子で桜と桃が13歳だ。
次々と出てくる名前に、柚瑠の顔が引き攣る。
龍樹はにやにやと柚瑠を見ているなか、緋鶴はさらに名前を並べていく。


「ひい兄が27歳で長男で緋鷹、その次3人…りい兄、しい兄、ちい兄……理鷹、志鷹、千鷹が三つ子で24歳でしょ、その次がりづ兄で21歳、それでわたしがいて、弟がしづとちづ…15歳の志鶴と13歳の千鶴」

「…………」

「?」

「知ってる名前ばっかだっただろ」

「……なんで」

「俺と美鶴……美鶴はひづの母親がいま44歳の同級生。穂鷹と華…まぁお前の母親とひづの父親が45歳の同級生。華と美鶴が親友だった。んで、まぁ、仲良くなって好きになってそのまま付き合って孕ませたからな」

「孕ませたって生々しいんだよ変態」

「変態だしな、華には」

「開き直るなよ…高校卒業したてのくせになにしてんだよ」

「お前もそうなるだろ、俺の子どもだ」

「…………」

「?」


若干怪しい話になってきた所で、龍樹が緋鶴の耳を塞いでいた。
自分の父親のことばに顔を顰めながらも、確かに自分もやりそうで柚瑠は言い返せない。
耳を塞がれほとんど会話を聞けない緋鶴は首を傾げていた。


「……父さんも穂鷹さんもどうやって最初桔梗とか緋鷹さん育てたわけ………?」

「あ?飯は畑のモン取ればいいだろ。畑で育てらんねえのは大体、美鶴が飯作るから、ここの家に来るやつが腐るほど持ってきたしな。お前らのオムツやら服やらおもちゃやら全部まわりからの祝い品だな。俺も穂鷹も、上と下には繋がりが腐るほどあるし…。生まれる度に馬鹿みたいに喜んでんだから、お前ら自体がお返しになるから変に金とかモノ準備する必要ねえしな」

「……まじか」

「ひづも休日んなると美鶴か華か二人の知り合いに引っ張り出されて服買ってもらうからな。お前は物欲ねえし桔梗と似てっから趣味の合わねえのもないだろ」

「……まぁ、不満を持ったことは無い」

「親父たちも周りの奴らもみんな子供好きだったからな。お前らを育てられるほどには全部揃ってたんだよ。それに、家族多けりゃ働き手も出てくる。こどもにも家事させりゃ、与えられるだけの甘えたにはなんねぇだろ。」

「あー、そういうこと…。」

「まぁ頑張れよ。柚瑠は絶対にひづとくっつくとは思ってたし何があっても何とかなる。」


緋鶴の耳から手を離すと、龍樹はぽんぽんと緋鶴の頭を撫でる。


「小学校の頃にはお前らふたりがくっつくことは予想してたからな…よく似ているし」

「……じゃぁ、たーくん、なんで香椎のこと教えてくれなかったの?」

「ひづが柚瑠に懐くの見たくなかったからな…ひづは俺に1番懐いてるだろ」

「うん」

「柚瑠を知ればすっとそっち行っちまうかと思ったからな。わざと会わせなかった。自然に会うのを待てばいいとも思った」

「………」

「まぁ、俺達が何も手を出さなくてもくっついたんだからいいだろ。もう部屋上がれ。ひづ、飯ん時呼びに行く」

「ん、ありがとたーくん」


デート、というよりお泊まり会…。
しかもここには緋鶴の家族だけではなく柚瑠の家族もいる。
話を限りそれ以外にも知っている人間と知らない人間を合わせてもっと人がいるのだろう。
柚瑠はそれを再確認し、緋鶴とイチャつけないことに少し落ち込んだ。
これからおめでたいとは素直に言えない、おめでたい初デートが本格的に始まる。

ホロ 2017/05/21(日) 11:06 [ 返信 ] No.160274
おまけにもニヤニヤしつつ読んでいます(*゜▽゜*)
可愛くて可愛くて、癒しですね…

タキ 2017/05/21(日) 21:16 [ 返信 ] No.160320
S部屋





「……ごめん、着替える。廊下で待ってて」

「りょーかい」


おそらく緋鶴の部屋だろうところに連れてこられ、柚瑠は言われた通りにその廊下で待機する。
バサッと服を脱いだり来たりする音が廊下にも少し届いて、柚瑠は呆れた。
男が外にいるというのに遠慮も何も無い。
めんどくさがりな緋鶴らしく、何かを投げ出す音まで響く。
緋鶴は黒のジーンズに桃色のパーカーを着て部屋から出てきた。


「洗濯出してくる。中でくつろいでて」


すたすたと去っていく緋鶴。
柚瑠はそんな緋鶴に仕方ないと小さく笑い、中に入った。


「あぁ…。…紀野っぽい」


思わず出た言葉だったが本当に、緋鶴の部屋だとわかる部屋だ。
部屋の殆どが本で埋まっている。
教科書もノートもテストも全部綺麗に整頓されている。
すっきりと見やすい部屋だ。
ちょこんとサボテンが置いてあったり、8体もぬいぐるみが並んでいたりするのは、意外だと柚瑠は笑った。
柚瑠は遠慮なくボスっとベッドに腰掛けた。


「ただいま」


戻ってきた緋鶴の手にはお盆。
上にはリンゴのジュースとクッキーが乗っていた。


「おかえり」

「香椎、ちょっとお盆持ってて」

「ん?」


緋鶴は柚瑠の足の上にぽん、とお盆を置いて、勉強机とは違うもう一つの机の高さを調節した。
柚瑠に丁度いい位置に決まるとお盆をその上に置き、自分は向かいにイスを引っ張った。


「……隣じゃないのか」

「………え」

「隣でいいだろ」

「……図書室でいつもこうだから、こっちのほうが落ち着くし……狭いし………」

「…………」


恨みがましい視線をぶつけてくる柚瑠に緋鶴は目をそらした。
緋鶴だって、さすがに彼氏が自分の部屋にいるのは気恥ずかしいのだ。
それをいつもと違って隣に、だなんてできるはずがなかった。

職員会議で4時で帰ることができた2人。
どうせ緋鶴の家に行くのだからと図書室には寄らずに真っ直ぐ、のんびり帰ってきたのだ。
いつもより明るい空、いつもより青い空…。
緋鶴の部屋は電気をつけなくても、カーテンを開ければ十分な明るさだ。


「あのぬいぐるみは…?」

「ん……。……中3のクリスマスにいつの間にか置かれてた。目覚めてたら並んでてびっくりした…。」

「クリスマスプレゼントか…」

「……ひぃ兄に聞いたらお父さんとお母さん以外で、兄妹7人で買ったんだって……しづとちづも。受験勉強で、勉強してなくても部屋にはこもるようになってたから…寂しくないように、って」

「…いい家族だな」

「お父さんとお母さんはそのぬいぐるみ達の腕の上中ひとつずつ、金平糖入った袋置いてくれた。8色…。美味しかった。」


懐かしそうに目を細めてぬいぐるみをみる緋鶴。
緋鶴はふとくすくす笑った。
柚瑠が首を傾げると、ぬいぐるみ一つ一つを指さした。


「あれがひい兄、りい兄、しい兄、ちい兄、りづ兄、しづ、ちづ」

「…どういうこと?」

「自分たちが1番どれが好きかで選んだんだって。ちづは可愛いうさぎ、しづはこいぬ、りづ兄はあるぱか、ちい兄はぱんだ、しい兄はコアラ、りい兄はとら、ひい兄はおおかみ」

「へぇ」

「きー君達は…あの写真立てとかボードとかかな?板チョコ挟んであったり、小さいチョコの袋画鋲で止めてたり……。エアコンの暖房で溶けかかってたよ。たーくんとはーちゃん…華ママね、あのふたりはアロマとかくれた」


くすくすと笑いながら説明する緋鶴に、柚瑠も一緒に笑った。
確かに考えてみれば面白いかもしれない。
朝起きたら人形が並んでるわ金平糖があるわ、写真とか勝手に増えてるわチョコなんか貼り付けてあるわ………。


「……たぶん寂しかったのかな?しづとちづが特に。それまでは結構面倒よく見てたんだけど、見れなくなっちゃってたし…。だから、あの後からは、勉強以外はみんなの所にいたな。大人は問題出してくれたし…やっぱり人が多いところの方が楽しい。」

「……うちも、桜と桃がここぞとばかりに甘えてきたな。クリスマスプレゼントは刺激的だったけど」

「どんなの?」

「壁一面によく分かんねぇ紙が貼ってあった。札みたいな感じで…そんで、あいつら……桔梗達も混じって何か書いてんだ。受験頑張れとかばーか、とかいろいろ。何も書いてないやつも剥がして裏見れば書いてあるし、所々に菓子が貼ってあった。………起きた時は何が起きたのか夢か現実かわからなくて、嘘みたいにビビった。あれはひでぇ……。」


柚瑠が顔を顰めると緋鶴は吹き出した。
お互いにとんでもない家族を、優しく暖かい家族をもったものだ。
しかも、自分たちはそんなことをされている間よく起きなかったな、とも笑った。
家族の話はお互いの家族をまぁまぁ知っているからよく弾む。
緋鶴はそうやって思い出していると、ぬいぐるみに触れたくなってベッドの傍にたった。
オオカミのぬいぐるみを腕に抱いた緋鶴は、普段は大人びて見えるのに幼くなる。
無邪気な笑顔がうかんでいるせいでもあるのだろうか。
柚瑠は手を伸ばして緋鶴の頭を撫でた。


「大切にしてんだな」

「…大切だから。お父さんとお母さんからのも、ひい兄達からからもらったのも、たーくんとはーちゃんにもらったのも、きーくんたちからもらったのも…全部残せるものは残してる」

「とんでもない量になるな」

「賑やか」


柚瑠はおおかみのぬいぐるみを両腕で抱えている緋鶴の腕を引っ張って隣に座らせた。
途端、うろうろと視線をさ迷わせる緋鶴。
柚瑠は落ち着かせるようにゆっくりと頭を撫でた。


「紀野」

「……」

「………紀野」

「………ん」

「なぁ、紀野」

「っ……なに、香椎」

「………」

「………」

「………なぁ」

「……なに…………?」

「……ひづる…………」

「………っ!?」

タキ 2017/05/22(月) 06:53 [ 返信 ] No.160361
#21名前






「…ひづる」

「っ……か、かしい………?」

「……ひづる」

「ねぇ、ちょ…」


幼い子どものように自分の名前をぎこちなく繰り返す柚瑠に、緋鶴は目を彷徨わせる。
その頬は赤くなっている。
柚瑠は顔を赤くしておろおろとしている緋鶴に小さく笑い、また呼んだ。


「ひづる…ひづ……」


緋鶴はその柚瑠に何かを感じたのか、小さく口を開いた。


「………ゆ、ゆずる…………?」

「…ん」

「…ゆずる………」


照れた顔をしながら自分の名前を呼ぶ緋鶴に柚瑠はうれしげにふわりと笑った。
どれだけそれを繰り返したか……緋鶴は顔を腕で覆って膝の中に埋めた。
髪の間から覗く耳も赤くなっているのに気づき、柚瑠は名前を呼ぶのをやめ、なだめるように頭を撫でた。


「これからは名前呼びな」

「…いきなり、どうしたの……」

「…いや、俺あの日から時々名前で呼んでる」

「えっ…!?」

「でも気づかないしな…ひづるは」

「…………」

「苗字、少し距離を感じる」

「…まぁ……」

「ずっと言おうとしてたけどタイミングが掴めなかった。村田がいつもひづるを名前で呼んでるの結構いらっとしてた」

「…そういうわりに、ぎこちないな……呼び方」

「今までずっと紀野だったからなれない。…ひづるも、俺のこと柚瑠って呼ぶのぎこちないだろ」

「…私は初めて呼んだ」

「…まぁ、紀野は男みんなに苗字呼びだしな」

「男の名前呼ぶ機会ない…家族とかここに遊びに来る人以外……」

「喜んでいいことだよな」

「……え」

「初めて?なら」

「…まぁ、小5以来かな」


いつになく綺麗な笑顔を見せる柚瑠の顔を、なかなか見ることが出来ない緋鶴はぬいぐるみにぎゅっと抱きつく。
柚瑠は、緋鶴が運んできたりんごのジュースに手をのばした。


「小5に何があったんだよ」

「…んー、別に男子は関係なかったんだけど……」

「?」

「いろんな人が、お兄達を知っているわけで…そしたらね、女の人たちが私を彼女と勘違いして、他の男子と普通に話しているだけなのにびっちとかいろいろ悪口言われて…とりあえず、男子を苗字で呼ぶこととたくさん人が居るところでお兄達にあんまり甘えたりしないこと意識した、みたいな…?妹って知ってる人でもなんていうかな…妹の癖にべたべたしてて気持ち悪いとかも言われてたから」

「…ひづる、いじめられてたのか」

「あれはただの女の人の嫉妬。時々手とか足とか棒とか出てきたけど、口は日常茶飯事で舞美以外の同級生の友達も出来なくなったくらい」

「いや酷いだろ」

「んー…でも正直舞美さえいれば楽しい生活は送ってたし、前も言ったけど結構小さいころからひとりあそびとかしてたから」

「………」

「あー…いま言ったこと下手にうちの家族とか来てる人とかに言わないで。ゆずるが考えている以上にめんどくさいことになると思うし。あと、舞美が調子のったらうざいから」

「……村田のこと好きなのか違うのかどうなんだお前は」

「好き。でも言うと調子乗るのがうざい」


あっさりと酷いことを吐く緋鶴に柚瑠は苦笑いした。
しかし、優しい目をしている緋鶴は舞美を大切にしていることが分かり二人はいい関係だ。
柚瑠はよしよしと緋鶴の頭を撫でる。


「ゆずるは」

「何が」

「水橋と仲いいから」

「幼馴染だからな、アレでも」

「好き?」

「嫌いではない。…ひづるの村田に対する感情と同じ」

「水端と舞美ってけっこういいコンビだと思う」

「馬鹿だけどな」

「二人とも馬鹿だからちょうどいい。…でも残念、舞美には彼氏がいる」

「まじか」

「まじ。しかも家庭的な人。そういうのが苦手な舞美にはぴったりだしなんだかんだお似合い」

「へぇ…意外だな、村田。年上?」

「二つ上だから大学生。美術の展覧会で知り合ったらしい。水橋はいないの、彼女」

「知ってる限りではいない。あんだけ運動できるからもてるけどな…そういうところは真面目だから中途半端なことはしたくないらしい」

「ゆずるは中途半端なことしてたんだ」

「……ひづるに会う前な」


柚瑠はふと、自分たちは自分の話よりほかの人間の話をすることが多いことに気づく。
お互いに知っていることは、家族構成と好きな本のジャンル、性格くらいだろう。
自分のことを話すのが苦手らしい二人。
しかし緋鶴はするりと柚瑠に過去の話をしてしまうし、めんどくさがりな柚瑠も聞き流すことなく緋鶴の話を聞いていた。
時折入る緋鶴の言葉に気まずい思いをしてしまう柚瑠は自業自得か。


「俺中学校ぐらいの時は、まぁいわゆる反抗期だったからな…。今も行ってるグループで暴れたりしてた」

「ゆずるが暴れるとか笑える」

「笑えねぇよ…」

「グループって銀蓮華か」

「ん、さすがに知ってるか」

「みんなそこの人だし…ここにいるの」

「は…?」

「そもそも銀蓮華作ったの父さんとたーくんだし」

「?!」

「元は父さんたちの友達グループで、ボランティア……こどもの相手とかお年寄りの相手とか交流とか掃除とか………してたんだって。それがまぁ父さんたちは喧嘩止めたりやっぱり人助けもたくさんしてたりで、しかもルックスもいいからそこらへんの学生には大人気でファンが多くて、そのグループの中に入りたい!って人が多くなって銀蓮華になったんだって。今でもしてるんでしょ、ボランティア。髪染めてピアスあけてる不良さんたちで。」

「…………」

「それ受け入れられてるのって父さんたちが紡いできた銀蓮華のおかげ。」

「…はじめて知った」

「りづ兄もいるでしょ、今はトップの立場らしいね」

「あー…」

「私も一回顔出そうかな…」

「……危ない」

「何回も行ってるから平気。それにりづ兄の世代ならまだ私のこと知ってる人もいるし」

「……。………行くとき俺に言うこと。」

「?ん、わかった」


銀蓮華は町にいる人なら一度は聞いたことがあるだろう不良チーム。
不良と言っても不良らしいのはその風貌だけで、やっていることは寧ろボランティアなど人助けや地域助けばかりであるから悪いうわさはない。
柚瑠はもちろん、緋鶴の言うとおり二人の兄弟たちもそこに属していた。
柚瑠は男だらけのその場所に緋鶴が来ることは気に入らない…多くの男の目に緋鶴が写ってしまうし、言葉通り危ない場所だからだ。
そんな柚瑠の気持ちにも気づかず、行くことを決めてしまった緋鶴。
柚瑠の悩み事であるお互いの呼び方は解決したが、銀蓮華によってまた心配事の種がひとつ増えてしまった。

タキ 2017/05/22(月) 10:48 [ 返信 ] No.160371
長すぎて誰にも読んで貰えないのではないかという恐怖に襲われるタキさんです。
タキさんは大体2000文字で1話にするようにしております。
…減らすべきかな

ホロ 2017/05/22(月) 19:11 [ 返信 ] No.160385
失礼を承知で申し上げますと…
もうちょっと短めに区切った方が好みかもしれません。
授業の合間時間に、すぐ最新話を読むことができるので…
ただ、どんな長さであろうと、必ず読みます!
眼鏡カップルがが大好きなので!!

芥辺 2017/05/22(月) 21:01 [ 返信 ] No.160390
図々しくもコメントさせていただきます。芥辺と申すものです
私は最近、この機能を使い始めてまだ至らぬ点があるところ小説を投稿させていただいているのですが、貴方様の小説に結構ハマってしまいまして…(笑)
表現もお上手で登場人物の気持ちや背景よく伝わり、本当に個人的な意見ですか大好きです。これからも頑張ってくださいね!それと、是非私が書いたショボイ小説にも目を通して指摘等してあげてください←

タキ 2017/05/22(月) 21:19 [ 返信 ] No.160393
ホロさん>>

ですよね…やっぱり長いですよね……
次書くヤツから1000から1500を意識して書いてみますね
25.6位までは今より長いかもですけど………w
ありがとうございます!!



芥辺さん>>
コメントありがとうございます!
情景やでてくる子の心情描くの苦手なのでそう言って頂けるととても嬉しいです!!

タキ 2017/05/23(火) 21:21 [ 返信 ] No.160465
#22夕ごはん



「ひづ、柚瑠、飯できたぞ」

「はーい、たーくんありがと」

「…んー」


龍樹が部屋の戸を叩き、緋鶴の返事を聞くと顔を覗かせた。
緋鶴と柚瑠が寄り添っている様子を見て、嬉しげに目を細める。
用件だけを伝えると、すっとまた部屋を出ていった龍樹に柚瑠は不貞腐れた顔をした。


「いこ、ゆずる」

「……ひづる」

「?」

「父さん、いつもあんな感じ?」

「?うん」

「慣れてる感…」

「まぁ17年間、たーくんもこの家に遊びに来てるから……」

「……父さんに随分懐いてるよな」

「?たーくん、小さい頃からいちばん遊んでくれたからかな」

「……そ」


首を傾げる緋鶴に、柚瑠は複雑な顔をする。
約1年間の付き合いの柚瑠と、17年間緋鶴を見てきた龍樹では、やはり緋鶴の懐き方も違う。
自分の父親に少し甘えたような顔をする緋鶴を見るのは柚瑠にとってはあまり嬉しくない話だ。
そんな自分に心がせまいなと舌打ちしたくもなるし、自分の父親に嫉妬は情けない。

柚瑠がそんなことを考えているうちに、いつの間にか緋鶴は柚瑠の手を引いて夕飯の場に向かっていた。


「……待たせてごめん」

「おー、おかえりひづ」

「あ"ーっ!!!まじで彼氏連れてきたああああ!!!」

「つーか柚瑠かよ!!」

「すっげー龍樹さんに似てんのな〜」

「桔梗君にもよく似てる」

「なんでひづにも似てんだよ…」

「いい男になってるじゃない柚瑠君」

「あーあ…ひづに彼氏か………」

「これでひづは俺の妹にもなるね、緋鷹」

「俺達の、だろ桔梗兄」

「桔梗君と青葉君と椿樹とも兄弟ってことか〜」

「うぇーい大家族〜」

「ただでさえ大家族ってのにな〜」


2人が入った瞬間にかけられた声に、2人はぽかんと立ち尽くす。
緋鶴にとっては日常茶飯事だが、今日はいつもより人数も多く、投げかけられる声も大きい。
柚瑠の家においても時折あることではあるが、柚瑠だってこの人数は経験したことがない。
いつの日かの教室のような出来事に、緋鶴はため息をついてそっと戸を閉じた。


「「…………」」


沈黙するふたり。


「……おら、お前ら騒ぐからひづも柚瑠も出ちまっただろ」

「みんな嬉しいのはわかるがもう少し穏やかに盛り上がろうな〜」


そんな2人に龍樹が呆れたように、穂鷹がのんびりと注意を促した。
しかし、騒ぐ声はおさまらない。
緋鶴と柚瑠は顔を見合わせる。
お互いにへにょりと下がった眉。


「あら、おかえりひづ〜。柚瑠君もいらっしゃい、ゆっくりしてってね〜」

「あ、お邪魔します…美鶴さん」

「それで、どうしたの?こんなところで固まっちゃって」


困った顔をしている二人の後ろからやってきたのは、緋鶴の母親の美鶴だ。
穂鷹と同じようにのんびりと穏やかな口調に優しい目……。


「あの……母さん…入りにくい………」

「え?…あぁ、みんな今日はいつもよりお酒が入っているものね〜…」

「……うん、そうみたい」

「ひづが彼氏連れてくるって聞いていつもよりみんなはやくきて盛り上がっちゃったみたいなのよ〜」

「そ、か……」

「でも、可愛いひづと柚瑠君を困らせてるのは感心しないかなぁ…ちょっとごめんね〜?」


美鶴が二人の前に進み出て、一瞬前までの穏やかさはどこにいったと思わせるほどの音を立てて戸を開けた。
シン、と静けさがなった。
柚瑠は目を丸くして美鶴の後ろ姿を見ているし、緋鶴はあーあ…と苦笑いする。


「ちょーっとお酒のペース早すぎだよ〜?可愛い子供どもち放っておいてお酒飲むなら今度から子どもたちがくるまでお酒ださないよ〜?」


にこにこにこにこ…前から見ても後ろから見ても美鶴が笑っているのはわかる。
しかし、前から見ている穂鷹や龍樹達からは、その美鶴の後ろに黒いものが立ち上がっているのが見え顔を引き攣らせる。
そんな穂鷹達の表情を見て、柚瑠は首を傾げ、緋鶴は自分の母は若いな等とぼんやりと考えた。
静かになった部屋に美鶴は満足げに笑いは緋鶴達を振り返った。


「ごめんね?ひづ、柚瑠君。入っても大丈夫よ〜」

「…母さん、ありがとう」

「はーい、ごはん食べちゃって?」

「「……頂きます」」


頬を緩ませた緋鶴の頭を撫でて、美鶴は料理を配り始めた。
緋鶴は様々な場所から声をかけられながら、穂鷹と龍樹の前に腰を下ろした。


「もう…ゆずがもっとはやくにひづを捕まえてくれたらいっぱいこうやって飲み食べ出来たのに」

「…母さんもいたのか……」

「いるに決まってるでしょ?」

「いや知らねぇよ」


真っ先に声をかけたのは、龍樹の影に座ってビールを飲んでいた柚瑠の母、華。
華の言い分に呆れたように言い返す柚瑠に穂鷹は笑った。


「昔の龍樹そっくりだな、ゆずは」

「……穂鷹さんいつもそれ言ってますよね」

「ゆずとひづを見ていると思い出してしまうんだよあの頃を」

「あの時、俺は華と一生を過ごすだろうし、穂鷹も美鶴と過ごすだろうって思ってたしな…」

「なんでそんな…」

「「感」」

「……そ」

「この人達は直感だけで生きてるようなものだからね」

「でも柚瑠もひづもなんとなく思っただろ…自分はこいつと一生いるだろうな、とか」

「よくわからないけどこの隣は落ち着く、とかな。俺も龍樹もそうだったからなぁ……」

「私と美鶴は、いつの間にか龍樹と穂鷹君と同じように思ってたし」

「…今まで聞いたことなかったけど……そもそも父さんと母さんとたーくんとはーちゃんはどんなつながりだったの」

「俺と美鶴が幼馴染みだった。穂鷹は小学校高学年くらいからの親友だな」

「俺は華と幼馴染みだったよ。でも華は妹みたいなものだったからな〜」

「私と美鶴は中学校の時からの親友かな?2年とか3年になるともう4人でいることが多かった」

「……俺とひづると陸哉と村田みたいな…?」

「そうだな〜」


親3人は酒をすすめ思い出にひたり、緋鶴と柚瑠はおかずをつまみながらそれを聞く。
他でも同じように飲み食いして盛り上がっていて、暖かい空気が流れていた。


「ひづ」

「?ひい兄、きーくん」

「ちゃんとご飯食べてる?ひづ」

「食べてる。きーくんたちこそ、お酒ばっかりでしょ」

「美鶴さんの酒の肴もおいしいからね」

「ゆずも遠慮しないで食えよ、母さん今日は張り切ったみたいだし」

「あ、…はい」


後ろから混ざってきたのは緋鷹と桔梗、それぞれの家の長男だ。
緋鶴と柚瑠が兄弟の中で1番甘えられる存在でもある。
優しい目でふたりを見つめる緋鷹と桔梗。


「…緋鷹さん」

「どうした?」

「この前、ひづるに昼分けてもらいました。美味かったです。」

「そうなのか」

「…ゆず、卵焼きが1番好きだっただろ」

「……ん」

「緋鷹とひづの卵焼きは美味いからね」

「……ゆずるのも美味しかった」

「あれ?前久しぶりに作っていったのはひづのため?ゆず」

「……ひづるが食べたいって言ったから」

「好きなもんも同じならいいじゃねぇか、な?ひづ」

「……ん」


嬉しそうに頬を緩ませて頷く緋鶴に、それをみた全員が癒される。
緋鷹と桔梗が去って行ったあとも次々と人が現れては緋鶴と柚瑠と戯れていく。
この日の紀野家はいつもの倍の賑やかさを見せていた。

名無し 2017/05/23(火) 23:58 [ 返信 ] No.160482
もしかしてこのスレ一番長いんじゃね?

タキ 2017/05/24(水) 06:34 [ 返信 ] No.160491
名無しさん>>
長いですね、1番…
約2000字を20話位まで来ちゃってるので……w

タキ 2017/05/24(水) 17:20 [ 返信 ] No.160508
#23告白



夕飯の場から抜け出した緋鶴と柚瑠は、家の庭を散歩していた。
もう星と月が輝いている。
穏やかな風が、緋鶴のセミロングの髪をゆらす。
風で目にかかった髪を、柚瑠が小さく笑いながら退けた。


「家も大きいけど庭も大きいな…」

「…んー。昔からある家なんだって。結構偉い位にいたっぽい?築何年たってるか分かんないし……」

「やっぱり古い建物か」

「あ、それは確か。父さんとかじいじとか…先代さん達が時代にあわせて変えてるけど…基礎とかは変わってないって」

「……すごいな」

「この庭も趣味として作ったみたい。うち、和風のものが好きな人ばっかりだし……池に鯉とかもそうだし…。山の方にも土地がある。日本、っていうものが残ってる感じの」

「へぇ…明るい時行ってみたいな」

「こんなに暗いと危ないしね。…明日晴れたら行く?」

「できたら」

「わかった」


庭に置かれた丸太の椅子に2人は腰を下ろした。
庭を歩いているうちに自然と繋がった手はそのままに…。
柚瑠が少し手を引いて緋鶴をもたれかからせる。
寄り添ったふたりは、高校生とは思えない落ち着きぶりだ。
少し、恥ずかしげに頬を染めている緋鶴は可愛いと柚瑠は心の中で呟く。


「明日明後日次の日来週、って……」

「ん?」


柚瑠が突然変えた話題に緋鶴は首を傾げる。


「こうやって約束していくのいいな」

「…急にどうした」

「いや、なんとなく」

「………」

「改めて思った」

「何を」

「あの時からずっと好きだったな、とか」

「……どの時」

「入学式。ひづるが…桜おいかけて笑ってた……。村田は珍しく困ったように、しょうがないって笑ってた。」

「……ぁ………あー………」

「無邪気に笑って桜おいかけて、捕まえては大切そうに紙に挟んで……村田に自慢げな顔してた」

「……母さんとちづが体調崩してたから…お土産に……しようとしてた」

「…そ。初めてあのとき緋鶴を見てそん時なんかこいつ好きだなって思った」

「……なんか見られてたと思うと恥ずかしいんだけど…」


緋鶴の言葉に穏やかに柚瑠が笑った。
普段冷静で大人びて見える緋鶴。
緋鶴が人にそのような無邪気で無防備な姿を見せることは少ない。
それは緋鶴自身がわかっている事だし、簡単に見せたいとも思っていない。
柚瑠がそんな姿を見られたことはある意味奇跡だった。


「好きになってから1年くらい、ずっと明日こうしたいとか思ってても付き合ってないから言えなかった。付き合えばもう我慢しなくていい。約束できる。だからいいなって思った」

「……まぁ、確かに…………」

「…ひづる、俺のこと好きだったか?」

「………はっ?」

「……だってひづるから全然聞いたことない」

「………」


うろうろと視線を彷徨わせる緋鶴。
柚瑠には近頃の緋鶴は幼く見える。
それだけ緋鶴が自分に心を許しているということだろうと、笑みが零れるのは抑えられない。


「……図書室…………」

「?」

「私が一番かと思ってた、入るの……なのにゆずるがいた…。私は誰もいないところで、1人で読みたかったから最初は何コイツってなった、けど………」

「…けど?」

「………ゆずるが、楽しそうに本に目を走らせてるから…そこから目を離せなかった…。…あまりいないでしょ…図書室で、楽しそうに、太い本とかたくさん重ねて読んでる人なんて……」

「あー……」

「私と同じ人がいるんだ、って次の瞬間嬉しくなって……それからずっと図書室に来たくなったし、ゆずるのこと目で追ってた、気がする」

「…………」

「…………」


尻すぼみになっていく緋鶴の声。
耳まで真っ赤になっていて、火照っている頬。


「ゆずるに告白されたとき、ほんとにびっくりした…。たぶん私はその時普通に頷くつもりだった。……なのにゆずるが監禁とか怖いこと言うからびっくりしたしてまともに返せなかった」

「……まぁ、今でも普通に思ってるけど」

「え」

「「…………」」


本気な柚瑠の声に緋鶴はびくっと固まった。
柚瑠は緋鶴の顔をのぞきこむ。
緋鶴はぽかんとして柚瑠の目を見つめた。
見つめ合うふたり。
2人とも真剣な表情だ。
夕ごはんを食べた部屋から話し声や笑い声が響いているが、二人の周りだけは静かだった。
緋鶴は柚瑠の言葉を自分の中で砕いていく。
しかし、緋鶴が柚瑠の言葉を完全に飲み込んで最初に浮かんだ感情は恐怖ではなかった。
……緋鶴が覚えたのはどこか安心感に近い。
この2人の感覚は一般とズレているのかもしれない。


「村田とじゃれあってたり、男と話してたりすると監禁したくなる。」

「……」

「普段静かに笑うひづるが、無邪気に笑っているところをみたら隠したくなる、誰も見えない場所に」

「……」

「ひづる、ひいた?」

「……ひいてない」

「ほんとに?」

「………ん。…わたしも同じような理由で、ゆずる、誰もいないところに隠したくなる」

「……そ」

「「…………」」


ふわりと2人が笑うあうと、ふわりとあたりに華が咲く。
もしかしたら歪んだ愛情かもしれないが2人には心地良い。
柚瑠は緋鶴の額に自分の額をくっつける。
緋鶴の緊張した身体を柚瑠が腕で暖かく包み込む。
2人は瞳を閉じてただお互いを感じていた。







綺麗な月と星空が2人を照らす。
時間が止まったかのように周りは静けさに包まれ、微かな風でさえ止んでいた。
名前も知らない花の甘い匂いがただよう。
そんな中、そっと……穏やかに凪いだ池に、重なった2人の影が移った。















2人のこの小さな秘め事を知るものはいない。

タキ 2017/05/25(木) 20:32 [ 返信 ] No.160586

紀野家と香椎家の家系図ですっ

ホロ 2017/05/25(木) 20:59 [ 返信 ] No.160590
23話大好き!
今までの話の中で1番どきどきする話だと思います(〃▽〃)

ゆずくんのセリフにも衝撃ですが、ひづちゃんが「わたしも...(略)」っていうところが衝撃でした。
2人のこの小さな秘め事を知るものはいない。って終わり方もロマンチックでいいですよね!

タキ 2017/05/27(土) 11:58 [ 返信 ] No.160686
あげまーっす


  



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